静岡新聞論壇

5月22日

中国経済が抱える課題

40年前の日本に酷似

現在の中国は、40年前の日本経済にそっくりだ。類似点をあげてみよう。
1、経済成長率(10%)、賃金上昇率(15%)、消費者物価上昇率(8%)は、ほぼ同じであり、 貿易収支の黒字が累増し、アメリカとの貿易摩擦が激しいこともおなじだ。71年に円が大幅に切り上げられ、元は現在、じわじわと上昇している。

2、70年頃の日本は公害大国だった。悲惨な水俣病やイタイ・イタイ病の原因が、公害にあることがはっきりした。四日市のような重工業都市や、東京のような大都市では、空気が汚染し、喘息患者が激増した。東京では運動中の女子高校生が光化学スモッグのために倒れるという事件が起き、光化学スモッグ警報が発せられるようになった。

東京オリンピック(64年)の時には、フランスの選手団は日本の水道は危ないというので、エビアン水を持参した。ヨーロッパ人には、日本人がマスクつけるのは、空気の汚染が酷いからだと信じている人が少なくなかった。北京オリンピックのマラソン選手候補は、スモッグを心配している。

3、大学生が増えた。日本では、70年までの10年間で大学生数は2倍になり、大学卒は普通の勤労者になった。将来が暗くなった学生は、「大学粉砕」と反米(愛国)をスローガンにして、暴力団のような破壊的学生運動を展開した。中国でも大学生数が激増し、学生が力を持ち始めた。中国人の留学生が大きな中国国旗を持って、外国の都市を走るオリンピックの聖火ランナーを囲み、国内では、大学生が中心になって、カルーフに対する不買運動を広げた。愛国運動が広がっている。
それは不満の捌け口だろう。

4、71年に、円が切り上げられた。73年の第4次中東戦争によって第1次石油ショックが発生し、石油価格が暴騰して、日本経済は「狂乱物価」に巻き込まれた。それとともに、賃金上昇と物価上昇が悪循環する悪質なインフレが始まった。現在の中国経済でも、資源や食料価格が急上昇し、賃金の上昇テンポが速まった。

ところで、日本経済は、75年以降85年ぐらいまで素晴らしいパフォーマンスを示した。まず、労働組合は、企業倒産を恐れて賃金引き下げに応じた。企業は組合の要請に応えて、人員整理を行わなかったので、労使に信頼感が深まった。次ぎに、企業は省エネに励み、「軽薄短小」の製品を開発した。それ以後10年間で、GDP1単位当たりにエネルギー消費量は30%以上も減った。公害型産業が縮小し、公害投資が進んだ。きれいな空が戻った。

五輪より大地震対策

その上、政府が福祉的な政策を実施した。石油ショックによる打撃を防ぐために、構造的な不況産業には補助金が支給され、米価が引き上げられ、小売店を守るために大型店舗法が作られ、公共事業では談合が認められた。こうした弱い産業が保護された結果、安全な社会が生まれ、忠誠心に満ちた従業員が育ち、世界1強い日本経済が誕生した。(なお、この緊急対策が現在まで残っており、そのため、日本は経済弱国に転落した)。

中国はどのように、この深刻な問題を克服するだろうか。中国政府は、現在、インフレに対しては元高と金融引き締めで応じている。公害と省エネを進めるには、日本の技術が必要であるから、日中の関係改善が必要だ。胡錦濤の来日の目的はそこもあった。

ところで、学生対策は難しい。大地震が、チベット族が多い地域で発生した。もし、救済や復興に成功しなかった時には、学生は政府や党幹部の腐敗に結びつけて批判し、愛国運動は政府運動に転化するだろう。中国政府にとっては、オリンピックより大地震対策が遙かに重要だ。

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