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10月15日
日銀、景気浮揚へ大転換
遅れた金融緩和政策
アメリカをはじめ、世界の主要国では、リーマンショック以来、輸出の拡大を狙って、競うように金利引き下げた。日本は金利引き下げ競争に遅れたため円高になり、現在、輸出産業は苦境である。
円高は当分続き、輸出が伸びないだろう。その上、すでにエコカーの補助金制度がなくなり、自動車需要が激減した。また、消費財産業では、酷暑にともなう需要増の反動が来ている。景気がこれから悪化しそうである。
景気が下降すると、税収が減り、財政赤字が一層増加する。そうした時、財政を拡大しても、景気は刺激されない。それは財政赤字額が大き過ぎるからだ。
政府が大型予算を組み、大量な国債を発行によって、市場から巨額な資金を吸収すると、金融市場は資金不足に落ち込み、長期金利が上昇する。そのため、民間企業は設備投資を圧縮し、また住宅需要が減る。つまり、財政拡大の効果が打ち消されるのである。
もし、財政の拡大政策とともに、日銀が国債を大量購入して、資金を市場へ潤沢に供給すれば、長期金利が上昇せず、景気刺激の効果が強く現れるはずであるが、日銀には、そうした行動を期待できない。
日銀には、敗戦直後の大インフレや70年代前半における「狂乱物価」の体験が強烈であるから、インフレを酷く恐れ、デフレを軽く見る癖がある。そのため、景気が上昇した時には早めに金融を引き締め、景気が下降した時には金融緩和のタイミングが遅れるのである。
1980年後半には、日銀は金融を締めすぎて平成の大不況が発生し、2000年と06年には、デフレを完全に脱却していなかったにも拘わらず、ゼロ金利政策を止めてしまった。その結果、デフレが10年も続き、雇用が減り、若者が希望を失い、企業は海外で設備投資するようになり、日本経済は成長力を失った。
日銀は、ずっと国債の大量購入の要請を拒否した。それは、政府の財政赤字政策に協力することになり、やがてインフレを起こすからだ。日銀は、インフレを防ぐために、孤高な姿勢を貫いてきたのである。
ところが、日銀は、最近、リーマンショック後、金融緩和政策のテンポが遅れたために円高を招いたという理由で激しく非難されている。政府は大型補正予算を実施しても、孤高な日銀では効果が出ないと思い、考え方を変更するよう圧力をかけ、また多くのエコノミストが変更を求める論文を発表した。
自尊心を捨て「禁じ手」
日銀は、今月初め、政策の大転換を発表して世間を驚かせた。まず消費者物価の上昇率が1%になるまで、ゼロ金利を続けると誓った。これは日銀が嫌ったインフレターゲット政策に近い考え方だ。
また株式や不動産に関する投資信託を買い上げて、通貨を供給すると約束した。投資信託のようなリスク資産が増えれば、日銀の信用力が低下する。保守的だった日銀が、自尊心を捨て、自らの首を絞めるような「禁じ手」を決断した。株価や不動産価格を底上げして景気に浮揚力を与えるためだ。
ゼロ金利になると、内需だけではなく、円安になるから外需も伸び、景気が立ち直る。その結果、輸入が一回り拡大し、世界経済に好影響を与える。どの国も財政赤字に苦しんでいる時は、金利引き下げ競争をするのは悪くないという理屈が国内で拡がった。
日銀は可能な政策を洗いざらい用意した。次は政府の番であり、一刻も早く大型補正予算を決め、また法人税を大巾に引き下げるべきだ。残念ながら、補正予算の内容は不必要なハコ物とばらまきが多くなりそうである。直ぐにでも、長期の成長戦略を立て、それに沿った予算づくりにしたいものだ。