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7月22日
「小野理論」を誤解した菅首相
消費増税で福祉に財政支出
経済学は定説がない学問であり、税制の効果についても様々な学説がある。アメリカでは、1980年代始め、大型減税すれば、財政赤字が消えるという新学説が登場した。減税によって経済が成長し、税収が大幅に増えると予想した。
レーガン政権は深刻な失業問題を解決するため、この新学説に従って大型減税を行い、同時にいろいろな規制を撤廃した。アメリカ経済は活気づいたが、財政赤字は3倍に拡大し、失業率は低下しなかった。経済は、この学説通りには動かなかった。
現在、日本経済の将来について不安が拡がっている。企業は安全経営を志し、設備投資を縮小し、人員を削り、それによって生まれた利益を銀行預金にしている。人々の生活はすでに豊かになり、さしあたって必要な物がないから、預金を増やしている。将来が不安な時には、物を買わずに現金を大切にするものだ。
その結果、デフレ経済が続き、膨大な数の失業者が発生している。エコノミストはこの苦境を克服するいろいろな政策を提案している。デフレ脱却のオーソドックスな方法は財政の拡大であるが、現在の日本はすでに財政が膨張し、国債が過剰発行されており、これ以上、国債増発を続けると、数年後には、現在のギリシャやスペインのように国家が破産するに違いない。もはや、財政拡大政策は使えない。
そうした時であるから、消費税を大幅に引き上げると、デフレ経済から脱却できるという新学説(大阪大学の小野教授の説)が注目された。 この新学説によると、政府は消費税の大幅引き上げによって、国民の貯蓄を吸い上げ、それを介護、医療、育児など、供給が不足している産業分野に支出し、育成すべきだという。
介護分野を例にとると、政府の援助によって、介護士の数が激増し、その賃金水準が引き上げられる。失業者はそれだけ減り、介護士の消費が拡大する。
また介護の量的、質的な不足が解消され、国民は老後の不安を感じなくなるから、安心して消費を増やす。公共投資を増やすと、無駄なハードがつくられる危険性があるが、介護の場合には財政支出が無駄なく使われる。
育児や医療等の分野でも、財政支出の増加が同じような効果を生むだろう。こうしてデフレ経済が解消され、日本経済は緩やかに成長し始めるという。
大産業への成長実現が前提
民主党政府はコメ農家への戸別所得補償や子育て支援等財政資金をばらまく制度をつくったが、受け取った家庭はその一部を貯蓄に回すから、消費刺激の効果が少なく、雇用があまり拡大しない。これに対して、直接、介護産業に財政資金を支給すれば、その額に応じて失業者が雇用され、彼等は稼ぎ、消費を増やす。経済効果が大きいのである。
この学説は菅総理にとって魅力的だった。もし、日本経済がこの学説通りに動けば、菅総理の名は「国家を財政危機から救った偉人」として歴史に残る。首相は嬉々として小野理論に乗り、突然、消費税率引き上げの検討を宣言した。
しかし、小野学論には、介護・医療などの産業が政府の支援を受けて、生産性を目覚ましく向上させ、大産業に成長するという前提がある。この前提が満たされた時、国民の不安は消え、デフレ脱却が可能になるのだ。菅総理は肝心な前提を理解していなかった。
国民からは、民主党政権は発足以来、選挙目当てに巨額な財政資金をばらまき、その尻ぬぐいのため、消費税率の引き上げるように見える。また効率的な福祉産業をつくれる力を欠いている。国民は、消費税率引き上げそのものに反対ではなく、それを実施しようとする民主党政権を信用しなかった。