静岡新聞論壇

8月12日

山岳ガイドと地域活性化

中高年令者登山の激増

15年前から「第2次登山ブーム」が起こり、現在まで続いている。その理由は登山用具は高性能化・軽量化し、また衣類の防寒・防水機能が向上したので、難しい山でも楽に登れるようになったことだ。

その時、中高齢者の登山者が激増した。彼等は、50年代後半から70年代にかけての「第1次登山ブーム」の時に若者だった。90年代から続々と定年退職して、「百名山」に挑戦する時間を得た。名山には高齢者の「白髪」が溢れ、夏でも白くなった云われた。

登山ブームは海外でも起き、エベレスト登山さえ大衆化された。国際的な登山ツアー会社が、世界中からエベレスト登山の希望者を集めた。登山ルートが整備され、100万円以下で、登頂できるようになり、今や、年間、400名が登頂している。ヒマラヤ・トレッキングは、登山ツアー会社の人気メニューになった。

日本でも登山ツアー会社が急成長した。高齢登山家はツアー会社の多様な登山プロジェクトの中から、好きな山を選べる。事前の細かい準備や同行者との日にちの調整が不要になり、ツアー会社任せにして、難しい山を登れるのである。「百名山」を目指す中高齢者にとっては、それは気が向いた時参加できる手軽な登山である。人気が高まった。

ところで、高齢者登山には、幾つかの深刻な問題があった。まず、高齢登山家は気持ちが若いので、体力の低下を忘れがちになることだ。彼等は高度に弱くなっており、2000メートルを超えると、突然疲れることがあるという。

日本人のエベレストの登頂者のうち、60歳以上が11名もいるが、そのうちの3名は帰路に突然死している。彼等は超一流登山家であり、また慎重に高度順応したはずであるが、高山病に襲われた。日本の山でも、高齢登山には同じような思わぬリスクがある。

次の問題は、ツアー会社の登山では、パーティーが即席で結成される。その上その山を不案内なガイドがつく場合があることだ。

ガイドが、数日間、ごく普通のペースで、即席パーティーと山を登っていれば、メンバーの体力や登山技能を知ることができる。しかし、登ると間もなく天候異変に遭遇した時には、彼等の力を知る余裕がなく、最も弱い人に合わせた団体行動をとれない。混乱して大型遭難を起こす可能性がある。

自然に関する総合能力育成

日本の山では、1000メートルぐらいの高さでも、荒れると3000メートル並の悪天候になる。その山を知り尽くしたガイドは、雲行きや風向きから天候の異変を予想できる。豪雨の時近づいてはいけない沢や、強風の時登ってはならない尾根を知っており、暗闇でも避難に適した窪地に辿り着ける。

たとえ、エベレストの名ガイドでも、日本の山で即席パーティーを預った時には、無能力になるだろう。天候が激変した時、パーティーが全滅して、ガイドだけ生き残るという結果になりかねない。

高齢者の遭難件数は年間2000件を超え、山岳地帯の県では救助ヘリ等の遭難対策費が増え、財政的に困っている。登山者は遭難保険に加入して、救出費用を自己負担にすべきだろう。

ガイドについては、例えば、立山、槍・穂高という具合に、連山毎に認めるべきである。県がガイド学校を開き、ガイドを認定するのが望ましいが、多くの連山は県境にあるから、國が行わざるをえないだろう。

ガイドは、連山内のの樹木や高山植物の解説、渓流下りの指導、スキー・スノボーのコーチを兼ねるようにしたい。連山を抱える自治体が、ガイドの地域の自然に関する総合能力を武器として、登山者を集めるのである。そうすれば、自治体にとって、山はコストではなく、収益源になるはずだ。

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