静岡新聞論壇

4月8日

「理解」を売る時代の始まり

商品を並べるだけではだめ

世の中に「物」が溢れるとともに、小売り店では、単に「物」を並べるだけではなく、顧客の生き方を知り、それに応ずる品揃えや売り方が必要になってきた。通販業界には顧客の心理を巧みにとらえた企業がある。

30才代の夫婦は育児と仕事に忙しく、百貨店やスーパーに出かける暇がないので、通販を利用している。彼らは物質的に豊かになったが、時々不安や孤独感に襲われる。それは地域コミュニティーや大家族コミュニティーが消え、ともに生活する人がいないからだ。その上、賃金が低下し、雇用不安が強まっている。
中堅・通販会社のF社は、人の繋がりをつくっている。例えば、手作り材料を販売し、完成した人形の品評会を開き、作品を貧しい國の子供に送る。特定商品には、植林とか、貧困救済といった目的のごく僅かな寄付と結合され、社会貢献の気持ちを満たしてくれる。小さな幸せと達成感が湧き、前向きに生きる力が生まれるという。

F社は、深刻な小売り不況のなかで、インターネットを通じて、数千種類のこうした商品を販売し、順調に発展している。興味深いのは、F社の社長は、利益ではなく、幸せを創っていると信じ込んでいることだ。
原子力発電所(原発)のような巨大プラントの売り方も変わった。韓国電力を中心とした企業連合は、昨年、世界の強力な企業連合との競争に勝って、アラブ首長国連邦(UAE)における140万キロの原発・4基建設(総額3兆6000億円)という超大型工事を受注した。

韓国電力中心の企業連合は主要部門の生産・建設を引き受け、また世界の一流企業を下請企業として使うのである。韓国電力は20基の国内原発を無事故で運転しており、その技術水準は高く、UAEには、原発完成後、60年間の長期運転と核廃棄物処理を保障した。これが受注の決め手になった。

韓国はUAEの目的をよく知っていた。それは石油資源の枯渇に備え、2020年以後、60年間にわたる安定電力の獲得にある。UAEの関心は専ら4基の原子力発電所が無事故で運転し続け、燃えかすの核廃棄物がきっちりと処理されることだ。

原発売り込みに韓国熱意

UAEは、原発の運転やメンテナンスについての技術習得には無関心だ。それは人口が少ない上に、教育水準も低く、必要なマンパワーを確保できないからだ。現在でも、産油、石油化学、金融等の主要産業や政府機関では、外国人が重要な実務を引き受けている状態である。
韓国電力以外で応札したのは、日立・GE連合を始め、プラント・メーカーが主体となっている国際的な巨大企業の連合だった。これらの連合は、高性能の原発を建設できるが、電力会社が加わっていないから、長期間にわたる運転保障は不可能だ。それでは経済が遅れている産油国では役立たない。
韓国は、IT産業で日本に圧勝し、つぎの狙いを自動車と原発に絞っており、10年後には、20基の原発プラントを輸出するという大きな計画を立てている。UAEとの交渉では、李明博大統領が、自ら現地に赴き熱意を示した。その過程で先方の要求を理解し、60年間の保障というリスクを引き受けた。それは、発展途上国における今後の市場開拓に効果的なPRである。

今や、原発プラントは普通の「物」になり、それについての生産能力は世界的に過剰であり、国際的巨大企業が激しく競争している。日本の企業は原発プラントでも、百貨店と同じように「物」を並べて置くだけ充分であり、性能が優れていれば、必ず売れるという考えから抜け出せなかった。韓国の企業連合は、通販会社のように、相手を理解して勝利者になった。

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