静岡新聞論壇

1月14日

小沢氏の歴史的地位

最経済成長へ所得再配分必要

日本経済は1980年代後半に土地バブルに巻き込まれた。それ以来、すっかり弱くなった。アメリカでは90年代後半に株式バブル、2000年代の始めに住宅バブルが発生した。住宅バブルの結末は08年秋のリーマン・ショックであって、世界的な金融危機を誘発し、工業国は不況に苦しんでいる。

現在では、金融業の規制がなく、かつ超金融緩和状態が起きると、バブル経済が発生することが、はっきりと判った。それを防ぐために、厳しい規制が必要だという国際常識が広がり、強い国際的な融資規制が検討されている。

国内では亀井金融大臣が、昨年、銀行が中小企業融資について返済期限の延長に努めるという法律を成立させ、銀行経営に介入する意欲を示した。また日本郵政の完全な民営化を中止し、政府が株主として影響力を行使できるようにした。

ところで、どの国でも、80年以降規制緩和とグローバル化が同時に進み、所得格差が拡大した。日本では、企業が中国や韓国との競争に生き残るため、従業員の30%以上を非正規雇用にして賃金コストを切り下げた。昨年にはその多くを解雇した結果、所得格差が拡大した。

これに対して、政府は労働市場の規制や生活保障を目指している。製造業への派遣労働の禁止や子育て支援がその例である。高度経済成長しつつある国では、すべての国民が一斉に豊かになれる。かっての日本がそうだった。しかしゼロ成長国になると、平等な所得再分配が福祉政策のポイントであり、高所得層への税金を重くして財源を稼ぎ、それを貧しい人へ平等に分配するシステムが必要だ。

それには、まず国民総背番号制の導入によって、税務署がすべての国民の所得を正確に捕捉することが不可欠だ。国民は税務署に対して所得や支出に関するプライバシーを完全に失うのである。金持ちは反対し、現代的な感覚の持ち主はプライバシーの侵害を怒るだろう。

政府はそうした反対を断固として蹴散らさねばならない。多くの国民が、生涯を通して安定した生活を送れると確信できた時消費が伸び、日本経済に明るい展望が開ける。将来の経済成長のために、所得再分配が必要だ。

独裁的な力を備えた政府だけが経済を管理し、金融業などの産業を規制し、かつ所得再分配を実現できる。幸い、民主党政権の背景には、多数の議員を配下に従えた小沢さんが控えている。彼はアメリカを軸としたグローバル化と激しい競争社会を嫌っている。時代の波に乗っているのだ。

強い政府と管理経済狙う

ところで、歴史を振り返ると、40年ぐらいの周期で、自由経済と管理経済が繰り返されている。1929年の大恐慌後に、世界は自由経済から管理経済に移った。

アメリカでは政府機関が増え、銀行は管理され、日本では主要産業が統制された。管理経済は、2次大戦を挟んで、70年代まで続いた。アメリカでは労働組合が強まり、経済力が衰えた。日本では官僚システムと国鉄等の非効率な国営企業が無傷で残った。

75年頃から、経済を活性化するため規制緩和・自由化が進められ、競争が激化して、賃金上昇は止まった。80年代は日米経済ともに繁栄した。ところが、2000年代に入ってアメリカの住宅バブルが崩壊すると、日米両国とも深刻な不況に突入して所得格差が拡大し、自由経済の限界が見えた。

オバマ政権は大銀行やGMを一時国有化し、医療保険制を導入しようとしており、管理経済に戻りつつあり、EUは統合の度合いを強めた。中国は厳しい管理型・市場経済を保ち、金融危機の影響を受けずに高成長を続けている。小沢さんの狙いは、明らかに強い政府と管理経済にある。そにため、失脚を期待する人が多いだろう。

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