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2月18日
強い企業の欠陥
部品メーカー、熟練工を育成
トヨタの強さは、系列部品メーカーの優れた技術に支えられている。安全で、乗り心地よく、高速で、かつ排出ガスが少なく走る自動車では、約3万点の部品の機能が調和し、一体となって作動している。トヨタは半世紀を超す期間をかけて、膨大な数の部品メーカーを育成し、協力して高性能の自動車を開発・生産することに成功した。
トヨタのもう1つの強さは、熟練工の分厚い層にある。すべての生産ラインのポイントには、経験年数が20年近い熟練工が配置されている。彼らは製造ミスを瞬間的に発見・修正し、さらにミスの発生を予防する対策を考える能力も備えている。もし自動車の完成後に、ミスが見つかれば、莫大な修理コストがかかるが、熟練工のお陰で修理コストがゼロに近くなっている。
ところが、この強さはアメリカでは充分に発揮されなかった。まず部品メーカーの独立性が強いので、日本国内のように濃密な技術依存関係を築くのは不可能だった。しかもアメリカ政府の要望に沿うため、現地メーカーの部品を使わなければならない。その上、生産の拡大とともに熟練工が不足し、07年頃からリコールが起き始めた。
しかし、トヨタは海外生産の拡大ともに、熟練工を海外へ続々と派遣し、その結果国内でも熟練工が不足して、作業ミスが多くなったので、熟練工の海外派遣を増やせなかった。 そこで、アメリカ等の海外生産拠点には、大型研修センターがつくられた。教師になるべき日本人熟練工が不足しているから、まず現地人の熟練工を育成し、ついで現地人による現地人に対する研修を始めた。
ところで、熟練工の技能が最も必要になるのは、例えば、「生産台数を半分にする」といった大規模な減産を実施する時だ。それにともなって作業量は半分に減るが、作業の工程数は減らない。それは自動車生産に必要な作業の工程数は同じであるからだ
半分に減った従業員が、2種類の作業をすることになる。慣れない作業ではポカ・ミスが起りやすい。そうした時、どの現場でも熟練の職長が活躍する。彼等はその現場の殆どすべての作業を経験しているから、部下に対して、熟練度に応じて仕事の数を配分し、自らは数種類の作業を引き受け、ミスの発生を防ぐのである。
分を超した生産拡大
かってのトヨタでは熟練工が多かったので、生産性の低下なしに、大型減産を実施できる実力を備えていたが、現在はその力がかなり衰えた。
トヨタの不幸は、08年からアメリカで需要が激減し、現地工場では、増産体制から突如として大規模な減産体制に変り、ミスが発生しやすくなったことだ。それは研修システムが稼働し始めた頃であって、熟練工不足が続いていた。危惧された通り、不具合製品が頻発した。
そもそも高級車の生産には膨大な数の高品質部品と、分厚い熟練工の層が必要だった。トヨタはそれらが整っていたため、芸術品のようなハイブリッド車を量産して、世界市場を制覇できた。ところが、海外生産の拡大とともに不良部品と非熟練工が増え、トヨタの強みは弱みに変わった。それは「分」を超した生産拡大の結果だった。
また、トヨタは傲慢になった。トヨタ・マンの多くは、効きにくいブレーキについて、抵抗なく止まるために必要だったという。成功企業は組織が肥大化・官僚化して、失態が起きると、まず無謬性が主張され、守りに入るものだ。
アメリカで広がったトヨタ批判の原因はリコールの遅れだった。トヨタ車が消費者から叩かれるはずがないという驕りが防衛的な姿勢に導いた。強過ぎた企業の弱点が目立った。