静岡新聞論壇

6月10日

上海万博、平和の機運醸成

世界のリーダー国を証明

上海万博は現在のところ大成功だ。中国は万博によって、世界のリーダー国になったことを証明できたからだ。世界には、敵対関係に落ち込んでいる國がある。また内戦中であって、政府軍や反政府軍のバックには近隣国や大国が就いている場合もある。つまり、相互に憎しみ合っている國が少なくないのだ。

それにも拘わらず、上海万博には、世界の192カ国中、実に189カ国が出展した。参加国数が多いことは、中国が世界の殆どすべての國から支持された証拠である。

中国は出展国を増やすために懸命に努力した。万博のテーマは、どの國も特徴を出しやすい「ベター・シティー、ベター・ライフ」が選ばれた。上海市の万博・副委員長は危険なカブールまで出かけ、アフガニスタンの出展を説得した。貧困国の出展には資金を援助し、その総額は1億ドルに達した。そうした結果、敵対国がともにパビリオンをつくり、上海万博は、平和の機運を醸成する場のよう見えてきた。

また、上海機構館、アラブ連盟館等重要な国際機関の出展がある。上海協力機構は、中国、ロシア、中央アジア4カ国が加盟し、インドやパキスタンが準加盟国であり、国際政治上の影響力が大きい。上海万博は、中国の国際的政治力の強さを示した。

万博の歴史を振り返ると、19世紀のロンドンやパリ博から20世紀中頃のニューヨーク博まで、主催国が先端産業技術の製品を展示して、世界を驚かせた。ところが、愛知万博からテーマが環境保全に変わり、上海万博では生活文化になった。

その生活文化には伝統が滲み出るものだ。中国館の目玉は北宋の絵巻「清明上河図」を100メートルに拡大して、その中で1600名の住民が歩いたり、店に入ったりし、馬車や船が動いている。人のざわめきや水の音が聞こえ、日が暮れ、しばらくすると朝になる。1000年前の生活文化が蘇った。

また「都市の足跡」館では、敦厚、ギリシャ、ピザンティン等の古代都市の文化が描かれ、日本館は和室文化が展示され、バイオリンを弾くロボットも文化的香りが漂った。

フランス館では、フランスの古典庭園がつくられ、またミレー、ゴッホの絵画が展示されている。発展途上国は民族文化を自信を持って展示している。そうした中で、アメリカ館やGM館は未来都市を描き異質な感じを与えた。伝統文化がアメリカ的文明より重要に思えるのである。中国の戦略勝ちだ。

中国人の儒教の心復活

私は1984年に(長銀調査部に在籍中)王震副首相に上海万博を提案し、すぐ日本企業10数社と研究ティームをつくった。

その研究の結論は、農家が点在する浦東地区は、万博の開催によってオフィス街に発展して、中国経済の成長をリードするという予想だった。しかし、実際には、万博開催の前に、浦東地区はマンハッタンのように高層ビルが並ぶ金融センターに発展してしまった。

また私たちの研究では、会場やトイレを清潔に保てるか、大勢の入場者の殺到が引き起こす混乱を防げるかが重要な問題だった。

しかし、実際の万博会場ではゴミがなく、トイレは清潔だった。人々はパビリオンの前で長時間静かに並び、整然と入場している。混乱するのは、人気イベントの時だけだ。場内のボランティアは年寄りと子供に優しい。豊かになるとともに、儒教の心が復活したらしい。夜の万博会場は美しい。5キロにわたる階上の歩道を散歩し、LED照明が美しい黄浦江沿いの景色を眺めると実に楽しい。私たちが昔心配したことは、全く発生しなかった。

上海市の関係者は、現在でも、26年前の私の提案が万博のきっかけになったと評価してくれる。中国人は僅かでも中国のために「井戸を掘った人」を忘れないのである。

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