静岡新聞論壇

9月12日

オバマ大統領の危険な賭け

敵の原始的な武器が誤算

第2次大戦後には、最新兵器で武装した多国籍軍の大規模な地上部隊や空軍が、弱小国に攻め込む形の戦争が多い。しかし、ベトナム、アフガン、イラク、リビアなどで悉く敗退している。一昨年、欧米空軍の攻撃によってカダフィー政権が倒れたが、イスラム独裁の新政権が生まれただけだった。

アフガン戦争では、米軍はタリバン支配の国を民主国家に変えようとして、ピーク時には、10万人の兵力を送ったが勝てなかった。米軍は2014年に撤収する計画であるが、現在、タリバンの勢力が強く、撤退後にはアフガン政府が、再びタリバン支配に戻る可能性が大きいので、米軍の一部はずっと駐留せざるを得ないだろう。

イラク戦争では、米軍はイラクが大量破壊兵器を所有しているという偽情報を信じて26万の大兵力を投入し、スンニ派の民兵と壮絶な市街戦を3年以上も続けた。ようやく米軍が有利になった時、今度は国内のスンニ派とシーア派の内戦が激化した。米軍はその最中の11年に完全撤退した。翌年選挙が実施されたが、投票所が爆弾テロに襲われる状態である。

米軍が勝てない理由は、まず歴史・宗教・部族の研究をせず、武力だけで解決できると錯覚していた。つぎに相手の国内で戦っているので、住民を見て瞬間的に敵・味方を判別できない。敵だと誤認して多くの住民を殺害したので、全国民が反米的になった。

最も重要な理由は、敵が予想外の原始的な武器を使うことだ。ベトナム軍は米軍のナパーム弾攻撃に対して地下トンネル網を張り巡らして戦った。

アフガンやイラク戦争では、遠隔操作の地雷や自爆テロが新兵器になったが、米軍もウサマ・ビンラディンの寝室を刺客部隊が襲うという、原始的戦術に頼った。

新しいタイプの戦争では、常に死に脅かされるから、PTSD(心的外傷後ストレス障害)によって廃人になる人が増えた。米軍はその対策として無人爆撃機を開発し、タリバン首脳部の集会や、イエメンやサハラ南のアルカイダ基地を爆撃した。米軍の死者はゼロになったが、巻き添えにされる一般市民が増え、国際的非難が激しくなった。

化学兵器根絶へ見せしめ

そうした時、シリアでサリンガスが使われた。アメリカは、アサド政権によると断言しているが、偽情報かもしれない。しかし、相手に致命的打撃を与える化学兵器が開発されたことは確かだ。アメリカは何としても、テロ集団が手軽に使えるこの化学兵器を根絶したい。見せしめのため、アサド政権軍の基地をミサイル攻撃する計画だ。

もし、それによってアサド政権軍の戦力が弱まると、反政府軍によるアサド政権の皆殺しが始まる。アルカイダ(スンニ派)が反政府軍の中核を占めているから、ヒズボラ、イラン等のシーア派やクルド族を激しく攻撃するだろう。アサド政権とヒズボラはイスラエルを攻め、反イスラエルのアルカイダとの和解のチャンスを探るかもしれない。

アメリカのミサイル攻撃はリスクが大きいから、国際社会やアメリカ国内で反対が多いのは当然だ。幸いにも、ロシアが化学兵器の国際管理を提案した。

ページのトップへ