静岡新聞論壇

1月31日

イスラム急進派の焦り

社会主義政権の弾圧

アルジェリアでは、周辺国で「アラブの春」が起きたにもかかわらず、世俗的(非宗教的)な社会主義・独裁政権はびくともせず、近代化や工業化の障害になるイスラム教を弾圧し続けている。従業員が一日5回のお祈り、断食、男女分離の生活を守ると、工場生産の能率が落ちるからだ。

アルジェリアの歴史は壮絶である。1954年から、民族解放戦線(FLN)が壮年男子の25%が死ぬという熾烈なフランスとの独立戦争に勝ち、社会主義政権が生まれた。

フランス人植民者の大部分は、報復を恐れ帰国したので、識字率10%という低教育の国民大衆と、国語になったアラビア語を自由に話せないエリートだけになり、国家を運営する力が欠けてしまった。
私は、70年代の終わりから数年間、国営企業の設備投資計画を作成するために、アルジェリアに長期出張を繰り返した。現地の人は、段取りづくり、正確な計算、仕事に対する根気という資質を欠いた人ばかりであって、仕事は遅遅として進まなかった。

人材不足のため経済は停滞して、未熟練労働力の失業が増大した。FLNは92年の総選挙でイスラム政党に敗れると、内戦に打って出た。十数万人の市民を犠牲にして、結局、イスラム政党を崩壊させた。

内戦後の新政府では、独立戦争を戦った軍人が引退し、それに代わって、勃興してきた民間企業や金融機関の代表者が加わり、工業技術の移転に関して言葉が通ずる旧宗主国のフランスに依存しようとしている。それは内戦のため教育水準が高まらず、熟練者が減ったからである。フランスはアルジェリアの天然ガス資源に惹かれ、要望に応じている。

ところで、中東のイスラム急進派は、イスラム運動の流れから取り残されてしまった。多くの国でイスラム教徒が政権を握り、政治の安定と経済の復興に努めている。アラビア半島の厳しい宗教国家でさえ、戒律より、技術を学ぼうとする若者が増えた。アルジェリアのような社会主義国では、工業技術を吸収するため、イスラム政党を非合法化し、こともあろうにフランスに接近している。

国境越えてテロ攻撃

急進派は焦り、アフリカ中部ではマグレブのアルカイダに集まり、異教徒に支配されている地域のイスラム教徒を救うため、アルジェリア、リビア、マリ、ニジェール等で国境を越えて移動し、外国人や政府機関に対するテロ攻撃を繰り返している。

2003年ごろから、ヨーロッパ人を標的にし、人質事件が毎年数件も発生するようになった。急進派は麻薬密輸の仕事を増やし、また人質の身代金を指導者にも配分して、サハラ南部の地域経済に根を張り、その上、リビアの内戦によって西アフリカに流れた新鋭兵器を大量に入手し、強力になった。

イスラム急進派はイスラム運動の主流に乗り、自己実現を達成したい。サハラ南部や西部が貧しい限り、こうした急進派の意欲は消えない。テロを根本的に抑えるためには、この貧しい地域の経済発展が必要である。

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