静岡新聞論壇

11月23日

世界的な2番底の恐れ

不自然な株価上昇傾向

主要工業国の経済指標を見ると、最近、異常な数値が並んでいる。まず、財政赤字が未曾有の大きさになったことだ。それは、どの主要国も自動車の買い換え補助金をはじめとする大胆な景気刺激政策を実施したためだ。アメリカの09年会計年度の財政赤字額は13兆円に達し、日本のそれの約3倍になった。先進7カ国の財政赤字総額は2年前に較べると4倍に膨張した。

第2に超低金利が続いていることである。財政赤字は国債の大量発行によって埋められた。国債を売りさばくには、金融を緩和して金利水準を低く抑えなければならない。さもなければ、国債の大量発行とともに金利水準が上昇して、国家の金利支払い負担が増えるだけではなく、企業の投資意欲が衰え景気が下降するからだ。中央銀行の政策金利は日本とアメリカはほぼゼロであり、EUは1%という異常な事態だ。世界には通貨が溢れている。

第3に、失業率が上昇した。アメリカでは、失業率は10%の危険水域を越え、EUは10%間近になった。財政支出が増え、かつゼロ金利になれば、景気が回復するはずだったが、その効果は夏頃一時的に現れただけだった。

第4に多くの産業では需要が伸びないから、供給力過剰の状態から抜け出せず、9月の実績では、企業の販売価格(生産者物価指数)はアメリカ、EU、日本ともそろって低下した。企業は収益を確保するために、賃金をカットし、また従業員数を減らさざるを得ない。景気下降の傾向が続きそうだ。

こうした景気の悪化を示す指標が多いにも係わらず、主要国では株価が今年の春より20%~40%も高い水準になり、アメリカでは上昇率がかなり高い。その原因はヘッジファンドの活躍にあったらしい。

ヘッジファンドが高収益をあげる環境が整った。まず金融機関は住宅ローンや消費者ローンが伸びないので、資金過剰に苦しみ、借り手を探している。信用あるヘッジファンドなら、喜んで低利資金を貸してくれる。つぎの好環境は、初夏から景気回復の期待が広がり、株価が上昇し始めた。

ヘッジファンドは、金融機関から借り入れた巨額な低利資金を株式投資に投入した。ファンド・マネージャーは、報酬が利益連動になっているので、大型な投機に走る癖をもっている。株価は次第に上昇し、ファンドに巨額な利益をもたらし、マネージャー達は夏以降高額な報酬を手にした。

近づく不況対策財政出動

また世界主要国のヘッジ・ファンドは、アメリカで低利資金を借り入れ、ドルを自国の通貨に換えて、自国の株式に投資した。こうして世界では広くドルが売られ、ドル安傾向が続いた。世界的なドル安と株価上昇が発生した。日本も例外ではなかった。

株高のもとでは、どの国の金融機関も所有株式の時価が上昇し、また企業は増資によって潤沢な資金を獲得し、自己資本を充実できた。世界経済も日本経済も深刻な不安要因を抱えながら、株高のお陰で平穏に推移している。

しかし、どの国の政府も財政赤字を無限に増やすわけにはいかない。低金利を保つためには、かなりの通貨量を追加供給し続けなければならないから、何時かは必ずインフレに襲われるからだ。インフレ下では国債の実質価値が低下する。高金利にしなければ、国債が売れない。金利水準が上昇すれば、不自然な株高は必ず崩壊する。

実際には突然、破局が襲うのではなく、その前に財政圧縮が徐々に進み、景気がじわじわと悪化し続ける。日本では政府の財政カット努力が景気悪化を誘い、2番底に落ち込む可能性が大きい。残念なことに、不況対策としての財政出動の時期が近づいている。

ページのトップへ