静岡新聞論壇

10月25日

政府の次に目標は高齢者就業

長命だけが残った人類

私たちは人類史的な問題に直面しているようだ。大部分の動物は子供を生む能力を失うとすぐ死ぬが、人類はその後も生き、祖父母として孫を世話し、種族を繁栄させた。その結果、天から長生きの権利が与えらたといえよう。ところが、高所得国(地域)では出生率が低下し、高齢者の人類的な役割が消えた。また技術進歩が速まり、高齢者の知恵も不用になり、長命だけが残った。

日本には儒教の心が残っており、また年配層は選挙の大票田であるから、高齢者福祉は実に手厚くなっている。社会保障費全体の中で高齢者関係給付が占める比率は70%に達し、それが財政赤字の増大と年金破綻をもたらし、日本経済が衰退する原因になっている。

もし、高齢化に対する社会保障給付が少なければ、政府は国立大学を無料化したり、また優れた外国人留学生に奨学金を与えたりする財政的余裕が生まれる。日本は、現在、先進工業国の中で教育に対する公的支出が最も少ない国であるが、これによって教育大国に戻れる。

優れた頭脳が企業や大学に集まり、十分な研究開発費が与えられると、新技術が続々と開発され、多数のベンチャー企業が生まれる。それとともに経済が成長するから、雇用が増え、若者の失業問題は解決されるはずだ。

そうなるためには、まず高齢者が働き、自らの生活費の1部を稼ぎ、国への依存を減らすシステムが必要だ。例えば、一日4時間とか、隔日に8時間とか働く。高齢者になってから、新しい仕事を覚えるには無理であるから、現役時代に習熟した仕事をするのだ。

現役時代の30%ぐらいの仕事量ならこなせる。年収は100万円近くなるだろう。高齢者が就業し、社会と接していると、健康が維持され、惚けが進まないそうだ。80歳近くまで働ける人は少なくない。

一部の高齢者は、経済大国・日本をつくった「栄えある世代」が、死ぬ寸前まで働くのは心外だと思うに違いない。しかし、彼らには日本を少子化社会に変えた責任や、官僚政治を許して、無駄なハコ物を全国に造り、自然を破壊し、その上膨大な財政赤字を残したという責任がある。

育児支援 成果は20年先

鳩山内閣は、政・財・官の癒着の根元だった官僚組織を根本から破壊している。官僚の天下り禁止、巨額な育児手当の創設、不用なダム工事の中止等、革新的な政策を次々に発表したが、それだけでは、この深刻な人類史的な課題は解決されない。

育児手当によって出生率が上昇したとしても、その子供達が働くのは20年以上も先である。その間に高齢者の介護と医療の費用は増え、日本経済が衰退し続けるだろう。それを避けるために、どうしても、高齢者の職場作りが必要だ。

政府は、従業員を高齢まで雇用し続けた企業に対して、税制上の優遇措置を講ずべきであり、サラリーマンは生涯設計を変える必要がある。サラリーマン生活はヒラ社員からスタートして管理職に登り、60歳頃からヒラ社員に戻り、70歳過ぎにはパートに変わるのである。自治体でも80歳ぐらいまで雇用し、役職員は60歳の定年の少し前に、ヒラ職員に戻り、それからパートになる。

かっての部下の下で働くのは辛いが、世の中が全部そうなり、慣れれば平気だろう。人類史的挑戦は案外易しいかもしれない。

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