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10月8日
経済危機下の亀井構想
貸し渋り防ぐ方法
景気は依然として悪い。生産がいくらか上向いたが、昨年の始めに較べると30%も低い水準だ。企業は慎重な経営姿勢を保ち、雇用と賃金を低く抑えているので、失業率は高く、消費は減少傾向にある。その結果、企業の値引き競争が激しくなって、物価が低下し、デフレ経済が続いている。
世界の主要国は、超緩和の金融政策を続け、また補助金を支給して自動車等の買い換えを促進し、経済危機を脱したが、それらの効果はそろそろ息切れである。アメリカの先行きが不安であり、ドル安・円高が進んでいる。日本の景気は2番底を迎えそうだ。
そうした時に、鳩山政権は補正予算のカットを始めた。無駄な支出でもカットされると、直ちにそれだけ需要が減少して、景気がさらに悪化する。しかし、鳩山政権は政権運営に慣れていない上に、官僚組織が混乱しているから、機動的な不況対策を打てそうにない。
亀井金融大臣は、絶妙のタイミングで、金融機関の「貸し剥がし」を嘆き、中小企業に対する貸し付けの返済期限を一斉に延ばすという異常な構想を発表し、事務方に検討を命じた。ところで、金融機関は不況期には、必ず「貸し剥がし」をするものだ。その理由を述べよう。
自己資本5億円、貸し付け債権100億円(自己資本比率5%)の金融機関を考えよう。この金融機関で1億円の貸し倒れが発生すると、自己資本は4億円に減少する。自己資本比率が低下すると、信用力が低下する。自己資本比率5%を維持するためには、貸し付け債権を80億円に圧縮すること、つまり20億円の「貸し剥がし」が必要になる。不況期には金融機関の「貸し倒れ」と「貸し剥がし」がともに増大するものだ。
「貸し渋り」を防ぐ最良の方法は、政府が金融機関の自己資本を補強するため、公的資金を投入することだ。
その際、投入する先は、中小企業融資を拡大した金融機関に絞るべきだ。そうすれば、地方銀行、信用金庫、信用組合は、将来性がある中小企業に争うように融資するだろう。景気が回復し利益が増大した時、公的資金を返済するのである。
強烈な個人プレイ
「金融機関はすべての真面目な中小企業に対し、元利金の返済期限を延ばすべきだ」という亀井構想には無理がある。まず真面目に働いているかどうか誰が判断するのか。金融庁の判断が加われば、再び官僚支配になる。また、人口の老齢化や工場の中国移転などによって、生存不可能な企業がある。さらに返済期限を延ばした後に倒産したならば、政府が保証せざるを得ない。
亀井大臣はテレビに連続出演して、問題があるこの構想を述べ、「真面目な中小企業をすべて守る」と熱弁を振るっている。人情政治を売り物にして、来年の参議院選挙で国民新党の議席を増やし、影響力を強めるという戦略が感ぜられる。
官僚主導の政府では、まず省益が優先され、日本経済は衰退した。政治家主導の政府に変わったが、与党の政治家でも政府全体の調和を考え、国家の将来を展望して組織的に行動するよりも、目立つ、歴史に名を残すという目的で、強烈な個人プレイに走る人が少なくない。非効率な政府になりそうだ。
亀井大臣は経済危機を鋭く感じとり、直ちに、個人プレイと党利・党略に走ったので、はやくも、連立内閣の弱点が露呈した。