静岡新聞論壇

4月23日

水際だった北の軍事力誇示

経済危機で余裕ない米国

他国から恐れられるには、軍事力を秘密に保つことと、大っぴらに誇示することとの2つの方法がある。

イスラエルは核兵器所有の有無を秘密にし、不気味な存在になった。首相は核兵器の有無を質問されると、「想像に任せる」という答えだ。周辺国はイスラエルの核兵器を恐れて大規模な戦争を仕掛けられない。イスラエルは一切を秘密にして、核武装しているのと同じ効果をあげた。見事である。

これに対して、フセイン大統領の秘密主義は失敗だった。核兵器や生物兵器の有無に答えなかったので、アメリカ軍に攻め込まれ、イラクはズタズタにされた。
一方、北朝鮮は核爆発に成功し、また人工衛星という名目で長距離ミサイルを発射して、完全な核武装国になったことを内外に誇示した。日本はアメリカの圧力に期待したが、それは無理だった。

その理由はまずインド、パキスタンに核兵器を認め、北朝鮮は駄目だという理屈に無理があった。また中国が北朝鮮の核武装に強く反対しなかった。中国にしてみれば反日・反米の北朝鮮は世界戦略上有り難い存在であり、北朝鮮経済の生存の鍵を握っているから、最終的には従わすことができる。]北朝鮮は多くの消費財を中国から輸入し、また中国との大型合弁鉱山から鉄鉱石、粘結炭等を輸出しており、経済封鎖されれば忽ち干上がってしまう。中国と北朝鮮の経済交流は太くなり、もはや日本の経済封鎖は効かなくなった。悪いことにはアメリカ経済が危機に瀕している。銀行の不良債権の処理や景気刺激のために、政府は膨大な財政支出を投入している。

オバマ政権は経済再建のため軍事費を減らし、イラク撤兵を決め、国交を断絶していたイランとの平和交渉を始めた。アメリカは北朝鮮と事を構える余裕がないのだ。北朝鮮はタイミングをはかってミサイルを発射した。水際だった作戦と云わざるを得ない。

日本の技術「張り子の虎」

日本は北朝鮮のミサイル発射の機会を捉えて、対ミサイル防衛の演習を実施した。それは優れた戦略だったが、自衛隊は発射を誤認して、防衛力の低さを世界に露呈してしまった。
常識では、日本は秘かに防衛訓練を行い、かつ第一段と第2段のロケットの着弾地近くに特殊艦艇を派遣して海底で残骸を収拾したい。収拾に成功し、ミサイルの性能を分析できた場合でも、勿論、それについて一切公表せず、成果を小出しに漏らして、相手国政府に恐怖心を与えるという姑息なやり方が考えられる。

振り返ると、日本は核技術の平和利用を宣言しつつ、1960年代にまず良質な「プルトニウム」を生産できる東海発電所を、ついで原子力潜水艦に技術を転用できる「原子力船」を、最近では「ウラン濃縮工場」と順次建設し、かつ「大型衛星」を打ち上げた。過去50年にわたって、核兵器に関連する技術を公然と蓄積したのは見事といえよう。

しかし、日本の国民は平和主義者であるから、この技術は「張り子の虎」に過ぎず、北朝鮮を抑える力にならなかった。頼むアメリカは衰退し、主要国は日朝関係に関心がない。さしあたって、姑息な手段しか思い付かないのは悲しい限りだ。

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