静岡新聞論壇

6月18日

米国経済再建の兆し

合法的粉飾と緩い査定

アメリカは、非常識とも思われる強引な政策を実施した結果、経済危機を克服する見通しが見えてきた。アメリカ経済の最大問題は住宅ローン関連の潜在的不良債権が1000兆円に達したことだ。下手をすると主要銀行が危機に追い込まれ、「貸し渋り」や「貸し剥がし」が拡がり、アメリカ経済が底割れしそうだった。

これを防ぐ秘訣は、まず第1段階として、帳簿上の不良債権を減らすことだ。日本では1990年代にバブル経済が崩壊した後、銀行は借入金を返済できない企業に対して、返済資金を融資して(追い貸し)、不良債権を健全債権に変えた。

アメリカでは、今回、住宅ローン契約を変更した。例えば借入期間を20年から30年に延長すれば、借入期間20年のローンは全て健全債権に変わる。政府は契約変更に応じた借り手と貸し手に対して、援助金を支給して契約変更を促進し、かつ借り手の生活を助けた。アメリカの学者は「追い貸し」を銀行の粉飾決算だと指摘したが、この契約変更は国家主導の粉飾決算と云えよう。

契約の変更によって競売住宅が減り、政府が銀行に対して住宅の競売手続きを6ヶ月間停止する命令を下したので、さらに競売住宅が減った。こうした強引な政策が成功し、住宅の流通価格は微かであるが、4月には上昇の気配を示した。住宅価格が上昇すれば、不良債権は減り始める。

秘訣の第2段階は、監督官庁が銀行の資産査定を行い、自己資本不足の銀行に対して公的資金を投入し、銀行の信頼性を確実に回復することだ。

日本では、大蔵省が1998年に突然、査定基準を厳しくした結果、不良債権が増え、3つの大銀行が倒産して、99年にかけて大不況が発生した。2001年には金融庁が銀行に検査官を派遣しもっと厳密な査定を実施したので、公的資金を投入したにも拘わらず、貸し渋りが続き、景気が一段と悪化した。これはアメリカの要望に添った政策であり、当時の日本では、それは正しい政策だと考えた人が多かった。

ところが、アメリカでは、最近、モデル計算によるラフな査定が行われた。それは日本のような厳しさを欠いていた。アメリカ政府は何よりも大銀行の「貸し剥がし」と倒産を恐れていたので、「査定した」という事実によって、大銀行の自己資本が充実しているという安心感を広げたかったのだ。

日本の失敗経験に学ぶ

アメリカ政府は日本の失敗の経験をよく学び、壮大な粉飾を合法化し、また緩い査定を行って大銀行を危機から救った。現在、景気対策の軸は金融から実物経済に移っている。ここでも、GMの実質的国有化という実に荒っぽい政策が実施された。

アメリカ政府は出資金を守るために、今後、GMの経営に介入せざるを得ないだろう。自動車業界には民営企業のフォードや、日本やドイツ等の競争相手企業が存在し、政府が経営介入してGMを助けると、明らかに、自由競争市場という原理を破ることになる。それにも拘わらず、GMが倒産・解散したならば、アメリカ経済は甚大な打撃を受け、金融危機対策の成果が台無しになるから、政府は実質的な国有化を選んだ。

アメリカ政府は、市場経済原理に反した社会主義的政策を平然と実施している。その大胆さは、市場経済は自分たちが創った原理であり、それだから、経済危機の時には自由自在に変形できるという傲慢な感覚から生まれたようだ。日本は不幸にもそれを不変の原理だと信じ込み、心の底からアメリカに依存した小心さこそ、過去の失敗の原因だった。

アメリカは経済再建に成功しそうだ。株式市場はそう読んでいる。

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