静岡新聞論壇

6月28日

望ましい「移民政策」

一段と高まる重要性

外国人住民がじわじわと増え、不法移民を含めると約220万人に達した。彼等のなかには、日本人が嫌がる辛い仕事を引き受け、日本経済を底支えしている人が少なくない。これから労働力が減少する時代に入るから、彼等の重要性は一段と高まりそうだ。

ところで、彼等は、数年働いた後に、帰国しなければならない。永住者が増えるとトラブルが心配になるためだ。彼等が歓迎されるのは、賃金が低い上に、単純労働に従事しているので、日本語教育や特別な訓練のための費用が要らないからだった。

しかし、実際には、母国から家族を呼び寄せたり、いろいろな方法で帰国を伸ばしたりする人が増えているので、彼等の子供の教育、医療、生活インフラ等、日本が負担すべき費用が次第に増加しており、外国人労働者のメリットが失われつつある。

移民が多いヨーロッパ諸国では、つぎのような考え方をしている。ドイツは、外国人労働者の永住を許さず、またドイツ人の血統がない者には国籍を与えなかった。ところがヨーロッパでこの血統主義が非難され、また移民が人口の8%以上を占め、永住の圧力が強まったから、最近、一定の条件を満たした人に国籍を与え、教育や社会保障を享受できるようになった。

イギリスとフランスはドイツと同じように新移民には厳しい制限を設けている。しかしイギリスでは、既に居住している移民は独自のコミュニティーをつくり、固有な教育と文化を守ることが許され、多文化共存の原則があっさりと認められている。

その背景には大英帝国連邦が世界に拡がり、多民族を準国民として抱え込んだ歴史がある。日本政府が在日朝鮮人に対して朝鮮人学校を認めているようなものだ。

フランスは同化主義の国であり、フランス生まれの人はフランス国民になれるが、すべての国民に人種や宗教と無関係な「独立した市民」として行動する義務が課せられている。

それだから、市民は公の場で自分が信ずる宗教的行事を行ってはならない。アラブ系フランス人が回教を信ずるのは一向構わないが、チャドルを頭に巻いて公の場である学校に通ってはならないのだ。フランスは悲惨な宗教戦争を繰り返した歴史があるから、国家と宗教を厳しく分離し、かつ「市民になる」という同化政策を続けている。

弾力性ある教育を

フランス人の30%は3代遡ると移民だという。外人部隊にいたハンガリー移民の父と、ユダヤ系ギリシャ移民の母を持ったサルコジ大統領が、フランスの経済力と文化の復興を叫び、怠惰な移民を激しく非難しているのは、まさに同化政策の成果と云えよう。

移民の国・アメリカでは、黒人のオバマ氏が「アメリカ的な自由と民主主義」を強烈に主張し、有力な大統領候補にのし上がった。

日本には移民の歴史がないから、政府は血統主義と同化主義を織り交ぜ、国籍の取得を難しくし、かつ居住者の子弟に日本の教育を与えようと努力している。ところで、多くの移民家族は、帰国すべきかどうか悩んでいるから、まず自治体は、彼等が安心して帰国できるように、子供に対する母国語教育を強く支援すべきだろう。

それと同時に、子供が将来日本で普通の生活を送れるように、正規の教育を与えることが必要だ。その際、例えば、無教育の10才の子供には、小学校一年の授業から始めるといった弾力性が望まれる。もし彼が年齢に応じた学年に編入されれば、落ちこぼれ、引きこもり、犯罪に走りかねない。

外国人労働者が多い地域では、彼等の生活環境をよく調べ、実情に応じたきめ細かい対策を講じていく中から、自然に、多文化主義か、同化主義かが決まってくるだろう。 (以上)

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