静岡新聞論壇

10月25日

住民による地域改善の動き

息遣いを感じ合う空間

残虐な殺人事件が頻発し、また警察官の犯罪が目立っているから、危険な世の中になったように思えるが、統計数値をみると、意外なことに、犯罪件数は平成14年の285万件をピークにして18年には205万件に下がり、今年の1月から9月には前年同期に較べて7%も減っている。

犯罪が最も減少したのは、「侵入犯罪」と「街頭犯罪」であって、その理由は地域の防犯ボランティアが激増し、活動したことだという。防犯ボランティア・グループの数は遂には3万に達し、参加人員は200万人を越した。皮肉な言い方になるが、警察が当てにならないから住民が立ち上がり、ボランティアが昼と夜に地域を見回りをした結果、犯罪件数が減った。

考えてみれば、地域の安全は住民が守るのは当然であって、それが伝統的な地域社会だった。そこでは住民がお互いに息づかいを感じながら生活しており、誰かが病気になったり、事故が起きたりすれば、直ちに感じ取り直ぐに助け合うという関係が出来上がっていた。
ところが、地域社会が崩壊して、隣近所はお互いに高い塀を張り巡らし、個室で生活するようになると、息づかいを感じ合う生きた空間は消え、住民は誰にも気を配らずに、自由に個性的な生活を楽しめるようになった。変化には必ず光と影があり、その抵抗のない真空のような空間には、犯罪者がやすやすと入り込めるのである。

ところが、最近、多くの地域で、住民がいろいろな集いや催しを増やしたので、徐々に生きた空間が戻っていた。毎月一回、土曜日の夕方等に住人が集会所に集まって、立食パーティー等を開催するといった団地が増えた。小学校の運動会や学校のスポーツ行事には父兄が家族ぐるみで参加している。地域のスポーツ大会、散歩の会、ゴルフ会、お祭り等が盛んになった。年配者も若い人も新しい地域社会をつくる手がかりを掴んだようだ。

中学校や高校が軸になって地域社会づくりを進めている処もある。東京の板橋区の一角に精密加工業の中小企業が集中している地域がその一例だ。そこの住民の多くは、企業が何をつくっているか殆ど知らず、この地場産業と関係なく生活している。

智恵絞り論議積み重ね

その際、考慮されたのは、第1に再稼働しない時に被る経済的打撃である。関西で酷暑になれば、15%を越す電力不足になり、生産活動が縮小し、消費が落 ち、倒産する企業が増え、失業が発生する。第2は安全性である。補強工事が完成するまでのリスクも問題だ。第3は地域住民が同意するかどうかであり、説得 方法やその手続きが検討されただろう。第4は節電の限界である。
これらの問題の最適な解決方法を考え出せる人はいない。それぞれの分野の専門家が「賢人」になって智恵を絞り、素人論議を重ねて、決めるしか方法がない。学問が細分化すると、そういう場面が多くなるだろう。

別の例をあげよう。中国は軍事力を強化し、2年ぐらい前から、アメリカや東南アジア諸国との軍事的対立が強まった。インドやパキスタンは核搭載の長距離ミ サイルを完成した。そうした時、日本のアジア研究は一段と細分化し、アジア全体の動向を把握する人材が不足している。優れた「賢人会議」が幾つも生まれ、 定期的な論議が重ねることが必要である。

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