静岡新聞論壇

9月29日

「証券化時代」に落とし穴

世界的金融混乱を誘発

証券化の時代になった。証券化とは何か。例えば、毎年、500万円の賃貸料を証券化すれば、長期金利が10%の時には、証券の総額は5億円近くなる。1つのマンションだけでは、周囲の環境が悪くなって入居者が減るかもしれない。

そこでいろいろな場所にある100戸のマンションの賃貸料・5億円を一挙に証券化すればリスクが減るから、500億円以上の資金を集められるだろう。建設費が400億円だったとすれば、差し引き100億円以上の利益を直ちに確定できる。

証券化時代では、銀行やノンバンクは倒産しないはずだ。それは、融資すると直ぐに貸付債権を証券化して、融資資金を回収できるからである。多様な貸付債権を纏めて証券化すれば、リスクが減り、証券の価格は貸付債権額より高くなる。買い手は証券を転売すれば儲かる可能性もある。マンションの借り手が続き、賃貸料が強含みである限り、すべての関係者がハッピーだ。

ところが、マンションが空き室だらけになると、すべての辻褄が合わなくなる。アメリカにおけるサブ・プライム・ローン(低所得向けに対する住宅ローン)の焦げ付きのケースがそれだ。それによって、世界的な金融混乱が誘発された。

アメリカでは、約6年前から金融緩和が続き、不動産融資が増え、その価格が上昇し続けた。それに押されるようにして、住宅金融会社のサブ・プライム・ローンが伸びた。それは銀行の審査をパスしない低所得層へのローンであって、ブローカーを通じ、金融の知識を欠いている人達にローンが押し売りされた。

低所得層は住宅価格の上昇が続き、将来住宅を売ればローンを返済できると信じ、返済能力以上の資金を高金利で借りた。住宅金融会社は、貸し倒れリスクを逃れるために、貸付債権を直ぐ証券化した。また、高度な金融工学を利用して、いろいろな種類の貸付債権を束ねて高利な新証券(債務担保証券・CDO)がつくられ、リスクの大きさを判断できないようにしてから、世界の機関投資家(ファンド、年金資金等)に売却された。

機関投資家は証券を購入する時には格付けを頼りにする。ところが、ムーディーを始めとする格付け機関では、主たる収入が格付け手数料であるから、競争に勝つため、手数料を引き下げ、また可能な限り高い格付けを与えた。コストを下げるために、調査が手抜きされたという。

リスクの大きさ分からず

サブ・プライム・ローン(期間30年)は最初の2年間が低金利であるが、その後は金利が急速に上昇するように仕組まれている。3年目に入ると金利を滞納する人が多くなる。住宅金融会社は金利未納の人には、遠慮会釈なしに住宅を競売に出して、元利金を回収している。

金利滞納者の増加とともに、競売住宅が増え、住宅価格が急速に下ってきた。同時にCDOの買い手が消え、その価格が暴落した。複雑なCDOについては、専門家でもリスクの大きさが判らなかった。

まずドイツの地方銀行を始めとして、事情に疎いヨーロッパの機関投資家が多額のCDOを抱えて経営危機に落ち込み、ついでフランスのファンドがやられ、さらにファンドに融資していた銀行が大打撃を受けた。こうして金融不安が全世界に拡がった。日本の株式市場では株価が暴落した。

アメリカの住宅金融における巨額とは云えない不良資産が証券化を通じて、金融機関倒産と国際的金融混乱を起こした。アメリカ的な市場経済には、変動を大きくするという致命的欠陥があることが露呈した時、市場経済原理を信ずる安部さんが退陣したのは、偶然の一致ではないかもしれない。

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