静岡新聞論壇

1月18日

グローバリゼーションの被害

企業を「物」のように売却

松坂選手のメジャー移転は、経済のグローバリゼイションが生んだ好例だった。彼はアメリカのプロ野球のおける一流選手並の賃金に引き上げられ、6年契約で年間10億円の報酬になった。1日当たり約300万円である。どんなに贅沢な生活をしても使い切れないだろう。

ところで、グローバル化とともに、金融機関も多様化し、活動分野が広く深くなった。堀江、村上両氏は不法行為を犯して儲けたが、複雑な専門的知識を持った人は、企業の合併や買収等の合法的な方法によって膨大な報酬を稼いでいる。

典型的なやり方は、まずファンドをつくり、巨額な資金を集める。その資金によって、企業の実力に比べて、株価が低い企業を買収する。直ちに製造部門のリストラに着手してコストを引き下げ、同時に、販売部門を強化して、売り上げの拡大に努める。

企業の経営基盤が弱体になったかもしれないが、短期的に見ると、確かに収益力が高い企業に変わった。株価は急上昇する。ファンドは、早速、この株式を売却して巨額な利益を手に入れる。株式は小口投資家に、売却されているので、ファンドのリスクは完全に消えている。

アメリカでは、大きなファンドが日常業務として企業を「物」のように安く仕入れ、見栄えを良くして、高く売却し、ディーラー達は高報酬を得ている。日本でも、買収ファンドが数兆円の資金を動かしている。

ところが、グローバル化には悲惨な面があり、惨めな生活に追い込まれた人が少なくない。中国に追い上げられている産業で働いている人や、単純な仕事で働いている人がそうである。

彼等の賃金は、中国の賃金水準や外国人労働者の賃金によって、下方に引っ張られ、少しも上がらない。1日働いて一万円も貰えない人が多い。グローバル化によって、賃金格差は拡大している。

グローバリゼイションは、アメリカ的な経済思想が世界に普及することだった。それによると、貴重な技能を持った人は賃金が高くなり、単純な仕事は、誰にでもできるから、賃金が低いのは当然だと考える。ファンドが良い設備や人材をもっているが収益性の低い企業を買収して、荒治療を施して、良い企業に仕立てて売却し、利益を稼ぐのは社会的に良い行動だという。

市場原理の非情さカバー

ところが、私たちの感覚では、いくら何でも、日当300万円と8000円では、格差が大きすぎる、何とかならないかと思う。また、従業員にとって、企業は人生をかけて働く場所である。関係ない人たちがそれを売買して、儲けるのには強い抵抗感がある。どうも市場経済に任せておくと、格差が拡大し、また不人情な行動が許され、日本は「ぎすぎすした国」になりそうだ。

それを防ぐには、政府の役割が重要である。収入が多い人には税負担を重くし、それによって、貧しい人にセイフティー・ネットを用意する。その時、役人には、恵まれているのに貧しい振りをして、政府にたかろうとする悪い利益集団を見分け、断固として拒否する見識が要求される。
明治維新で、貧しく誇り高い下級武士が、自らの特権を消滅させる変革を成し遂げたのは感動的だ。小泉さんは金にきれいであり、自民党を支えてきた既得権者の政治勢力を恐れなかった。国民は小泉改革を強く支持した。

公務員が民間のサラリーマンより恵まれた生活を送っている限り、政府は信頼されない。彼等が、高い見識を持ち、かつ清貧に甘んじた時、政府のガバナビリティーが強まり、市場原理の非情な側面をカバーできる。そこから「美しい日本が」が生まれるはずだ。(以上)

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