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6月21日
民兵による凄惨な内戦
シリア内の歴史的恨み
普通の戦争では、正規軍が戦い、和平交渉が成立すれば、すぐ停戦になり、平和が戻る。ところが、多宗教や多民族の國の内戦は、民兵の戦いであり、異宗教や異民族に対する歴史的な恨みが蓄積されている。その上、司令部を欠いているので、どちらかが決定的に負けるまで続く。シリアはそういう事態になっている。
イラク戦争の時、激しい内戦が続いた。シーア派のイラク人が、ワシントンでイラクの大量破壊兵器所有という偽情報を流し、またアルカイダの幹部がCIAから拷問を受け、フセイン政権から生物化学兵器を渡されたという嘘の自供をした。アメリカは偽情報を信じて、イラク戦争を始めた。
米軍は、まずバクダットからフセイン支配下のスンニ派軍隊を追放した。職を失ったスンニ派兵士は民兵となってシーア派の住民を襲い、それに対して、シーア派民兵がスンニ派の住民を攻撃した。米軍はイラクの秩序を維持するため、両派の民兵と10年近くも戦った。まだ、完全に収束していない。
欧米諸国は、リビアで反政府運動が起きると、カダフィー政権の打倒という理由で、軍事拠点を爆撃し、反政府軍に武器を渡した。武器は反政府派部族の民兵だけではなく、政府派部族の民兵にも渡り、内戦が長く続いた。 シリアでは、現在、アサド政権(アラウィー派・シーア派の1派)の軍隊と、そこを脱走したスンニ派の軍人と民兵が合流してできた自由シリア軍が激しく戦っている。幾つかの都市では、無秩序な殺戮と仕返しが繰り返され、凄惨な状況にある。
自由シリア軍は、脱走兵と民兵の集合体であり、統一された司令部がない。政府軍が停戦しようとしても相手がいない。在米の「自由シリア人」はワシントンで、米軍のシリア出兵のロビー活動を行っている。
欧米の武器供給で激化
米軍はイラクとアフガニスタンへの侵攻によって、イスラム諸国で毛虫のように嫌われ、英、仏、独のヨーロッパ列強は200年近い中東侵略の歴史によって憎まれている。もはや彼等の出る幕がない。
もし、欧米諸国が、自由シリア軍に武器を供給すると、戦いが激化し、殺戮のスケールが大きくなるだろう。自由シリア軍が優勢になると、アサド大統領を始め、人口の10数%を占めるアラウィー派の人々の命が危ない。
その時にはシーア派の大国・イランが介入するだろう。それに対して、反イラン・親イスラエルの欧米諸国が自由シリア軍を全力で支援し、イランに対する経済封鎖を一段と強めるに違いない。
これに対して、中国やロシアは地中海の要衝であるシリアに対する欧米諸国の影響力の増大を恐れ、原油購入によって、イランを救済するに違いない。
シリアの隣国・トルコはNATOの一員である。一方、すぐ近くのイランは中国・ロシアが中心になっている上海協力機構会のオブザーバーである。シリアは欧米と中ロの勢力がぶつかり合う国際政治的に重要な国だ。
ここで、アサド軍と、民兵に近い自由シリア軍が戦っており、和平の見通しがつかない。ギリシャ以上の国際的危機である。