静岡新聞論壇

6月7日

ユーロ危機の宗教的背景

価値観が異なる3信徒

宗教によって人の感じ方は変わるものだ。教会では、キリストが十字架で血を流し苦しんでいる。人間を原罪から救うためだ。ところが、小乗仏教の國では、お釈迦さんが、お堂で微笑んで寝転んでおられる。仏教では原罪がないからだ。

EUには、プロテスタント、カソリック、東方正教の國があり、信徒はそれぞれ異る価値感で暮らしている。マックスウエーバーによると、プロテスタントは勤勉、節約、聖書の反復読書の生活を続ければ、救済される可能性が大きいと信じ、働き続けているという。大資産家になっても、勤勉・節約の生活を続け、資産を慈善事業に寄付するのである。ビルゲイツは資産の90%を寄付した。それが救済される道だ。
カソリック教では、ローマ法王庁のもとに国際的スケールのピラミッド型組織が形成され、世界遺産の教会が沢山ある。カソリック教徒は、日曜日に荘厳な教会に通い、神父さんから高邁な説教を聞いて神に近づくことができたと喜び、安心してのんびり暮せるのである。

ギリシャは、ローマが東西に分裂して以来、東方正教の國であり、15世紀以降は、イスラム教のオスマントルコに属したが、東方正教を信ずることを許された。

東方正教では、厳しい修行を経た聖人が総主教になるが、国王の配下に入り、政府に協力している。原罪はなく、信者はイコンの中に神を見て、救済を祈っている。

ユーロの國には、1,働き者で節約好きなプロテスタント信者、2,教会を信じて人生を楽しむカソリック教徒、3,総主教が政府に従い、信者はイコンに祈る東方正教の3つの信徒がいる。
マックスウエーバーは、プロテスタントの勤勉、節約の倫理が資本主義の繁栄をもたらしたという。現在でも、北ヨーロッパのプロテスタントが多い國では健全経済が保たれている一方、カソリック教徒が多い南欧諸国は、安心して人生を楽しむ人が多いせいか、銀行は不良資産を抱え、国家財政は破綻している。

ギリシャは、ヨーロッパ文明に属していないにも拘わらず、ユーロに加盟したので、政府と国民は喜び、一時的におかしくなり、借金をしてヨーロッパ並の生活を楽しんだ。その結果、国家が破産状態になった。

基本的な経済倫理肝要

現在のユーロ危機は、異文明の生活・経済システムが合体し、ルールを共通化しようとする時に発生する摩擦といえよう。不幸なことに、その時、低廉な中国製品が押し寄せて、失業が増え、景気が悪化していた。
ユーロを守るには、すべての國が共通した基本的な経済倫理、つまり、分を越した贅沢をしないこと、借金は必ず返すこと、個人は国家にたからないこと、国家はばらまき政策をしないこと、の再認識が必要である。ドイツは、この倫理を強く主張したいが、しかし、最近まで、経済の弱い國が過剰消費によって破綻していく過程で、そこへの輸出によって経済成長を遂げたので、大きな口をたたけない。

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