静岡新聞論壇

4月

アメリカの都市規制

市街地の品格の低下防ぐ

スーパーやファースト・フード店に対する規制がヨーロッパだけではなく、アメリカでも広がっている。経済活動が自由なアメリカで規制を強めている自治体が多いのは意外な感じがする。

アメリカではウォルマートが年間300店というスピードで出店し、各地で他のスーパーや伝統的な小売店を圧倒している。ウォルマートの強さは、ドラッグストアと日本のスーパーの長所を結合したような品揃えと優れた店舗設計にあり、全世界での売上高が37兆円、従業員160万名という怪物のような小売業者だ。

ウォルマートが進出すると、その賃金が低いので、地域の小売業は競争に敗れないために、賃金を大幅に引き下げざるを得ない。その結果、医療保険を支払わない低所得階層が増え、自治体の負担が大きくなった。

競争に敗れたスーパーと小売店の残骸が都市景観を悪くし、また、ウォルマートの店周辺の道路が混雑するので、進出した都市の地価総額が大きく低下している場合が多い。都市にとっては、マイナスの効果が大きい。

とくに、歴史が長い住宅街では、伝統的な商店街の寂しい跡地が景観が悪くしているだけではなく、年輩者は手軽に近所で買い物できなくなった。遠くのウォルマートまでわざわざ買い物に行かなければならない。そこには、安い日用品ばかりであり、高級品を買えない。

こういう問題があるため、オールマートの出店を禁止する自治体が増えた。また、自治体の医療保険負担の増加、地価の低下、道路混雑による経済効率の低下等のマイナス要因の計量計算が、経済学者の魅力的な研究テーマになり、その研究成果が反対運動を盛り上げているケースもある。

ところで、アメリカでは、ほとんどすべての都市にゾーニング規制があり、用途だけではなく、建物の形や色彩、看板、ライティング、樹木の伐採、小売りやサービス業の開店・廃業、営業時間等を厳しく決めているケースが多い。観光地の自治体には、マクドナルドやケンタッキーフライドチキンのような全国一律のメニュー・看板・制服のレストランを禁止し、また銀行、画商、レストラン、美容院等の数を決めて過当競争によって市街地の品格の低下を防ごうとしているところもある。

欧米と違う日本の「自由」

西欧諸国は日本と同じ自由の国であるにも係わらず、都市規制が多いのは、自由の考え方が違うからだ。彼等の自由は、国家権力からの自由である。ヨーロッパの都市市民は、激しい戦いによって封建領主の束縛からの自由を勝ち取った。アメリカは、独立戦争によって、宗主国イギリスから自由を獲得した。その結果、都市住民は、自由に厳しい都市規制を創り、住みよく景観が優れた都市をつくれるようになった。

ところが、日本の自由は、2次大戦後、突然に占領軍から与えられたものであり、残念ながら、未だその自由を担うべき成熟した自治体が存在しなかったので、中央政府は、地方政府が持つべき自治権を取り上げ、細かく干渉した。都市には自由がなかった。

私達は、私達が選んだ自治体の長や議員に、自由とは中央政府の干渉なしに自由に都市政策を決め、実施することだという自覚がなかった。自由とは、個人や企業が、自由に自分の土地を利用し、自由に建物を建て、何の制約も受けずに自由に振る舞うことだと錯覚した。

その結果、景観が悪く、雑然とし、絶えず交通渋滞が発生し、細い道まで自動車が乗り込み、住みにくい都市が出来上がった。自治体はやっと独自の都市政策を創造する重要性に気づき始めた。

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