静岡新聞論壇

8月

中国と靖国参拝問題

独裁的権力、広がる腐敗

20世紀の中国は実に気の毒だった。「日中戦争」、「共産党と国民党の内戦」、「文革という内乱」が相次いで起こり、思想は3民主義、毛沢東主義、社会主義的市場経済と目まぐるしく変わった。

毛沢東は惨憺たる時代を創り、文化も、思想も、日常のモラルも消滅させた。彼は夢の共産主義を実現するために、まず、漢字を簡体字に変え、国民が論語や孟子といった古典を読めないようにして、伝統的なモラルを破壊しつつ、毛東沢思想を叩き込んだ。文革では、文化やモラルの担い手というべき教師、インテリ、中産階層を社会の最下層に追い込んだ。文化遺産が破壊され、書籍は焼かれた。密告が奨励され、相互の信用も消え、インテリ達は面従腹背の姿勢で生活した。若者は学校に行かなかったので、無学で、礼儀や作法を全く欠いた厚い年齢層が生まれた。

こうした状況にある多民族・大国を1つに纏めるには、共産党の一党支配を続ける必要があり、現在でも、中央政府、省、市は勿論のこと、国有企業、大手の私企業まで、党の組織が張り巡らされている。それぞれの党組織は党の命令をそれぞれの機関に伝え、また重要な裁判にも影響力を行使している。

独裁的権力が統治すると必ず腐敗が拡がるものだ。市場経済になれば一層そうである。よくみられる例をあげよう。中国では土地が国有であり、省や市の政府は、農地の所有者であるから、インフラや工業団地を造る時には、農民から農地を安い価格で強制収用できる。省や市政府は関係の深い建設業者に発注し、また知り合いに団地を転売して、巨額な裏金を受け取るのである。

モラルが消えた市場経済では、人々は良心の呵責なしに金で動き、党や政府機関には、汚職や公金横領が蔓延した。年間、海外に送金される幹部の横領額は500億ドルに達するという説がある。国営企業は赤字続きでも、リストラを実施せず、国営銀行から資金を借り続けて、経営を続けている。その借入金を返済する積もりはない。

街では偽物や有害食料が平然と売られ、泥棒も増えている。借金は踏み倒されるので、多くの場合取引は現金だ。人々の納税の意欲はゼロである。また大都市では大気汚染が耐え難いほど深刻になり、また水不足に苦しむ地域が増えた。

農村からの出稼ぎ労働者は低賃金の上に、都市籍を持たないため差別を受け、子供を小学校にも入学させられない。多くの人は、こうした貧富の格差にも、無感覚なっている。スポーツの国際試合でも、モラルを守れない観客ばかりだ。

日本相手に愛国心高める

党の中央は事態の深刻さをよく知っており、汚職や犯罪の撲滅を狙い、見せしめのために、経済犯を含め年間3万の死刑を執行しているというが、あまり効果がない。毛択東によって、粉々にされた信用やモラルは、死刑で脅しても回復しそうもない。少なくても、回復には、数十年はかかりそうだ。

ところが、実際には、拝金主義は経済成長を上回るテンポで膨張している。アメリカはそれを煽るように、自由化、民主化、規制撤廃等を要求してくる。中国政府は、兎に角、どういう手段をとっても、拝金主義の膨張を押さえなければならない。それには、ナショナリズムを高揚させ、愛国というモラルを強めるることが、最も楽で、効果が上がる方法だ。

幸い、日本とは靖国や領土問題がある。その上、日本でも「普通の国」になるために、ナショナリズムを盛り上げている。日本を仮想敵国に仕立て、お互いが一層罵り合い、それが中国人の愛国心を刺激すれば、拝金主義の広がりを封じ込められる。彼らにとって有り難いことに。小泉さんは、8月15日靖国神社に参拝してくれた。

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