静岡新聞論壇

3月

日本経済の粘り強さ示す

超金利政策で景気上昇

景気は、現在、絶好調である。数年前まで、日本経済は設備と人員過剰に悩み続けたが、需要が拡大した結果、今や、逆に設備と人手がともに不足するという状態に変わった。最近、多くの企業は供給能力を増やすために、新工場を建設し、また能力ある新卒者を奪い合うように採用している。賃金が上昇し、個人消費が盛り上がってきた。

景気が本格的に上昇した第1の要因には、5年以上も続いた超低金利政策があげられる。まず日銀からゼロ金利で潤沢な資金が供給されたので、銀行の信用力が高まった。さらに銀行は、超低金利によって利鞘が保障されたため、収益が拡大し完全に立ち直った。また企業は、超低金利政策によって借入金の金利負担が非常に軽くなり、収益力が強まった。

金利引き下げの皺は、結局、預金者に寄せられていた。総理府の計算によると、91年には、家計(個人企業を含む)の利子所得は37兆円に達したが、超低金利の04年度では、たった4兆円に激減した。その差額33兆円は、現在の法人所得に匹敵する大きさである。91年には、金利が高かったので利子所得が大きかったが、ノーマルな金利水準の時でも、それは20兆円近くになるだろう。

こうした巨額な資金が、5年間も家計から企業や銀行に移転されたならば、企業や銀行の経営が好転するのは当然だ。家計にとって、20兆円近くの負担増は、消費税が15%に引き上げられたと同じくらいだ。

第2の要因は、数年前までの厳しいリストラによって、企業の体質は強化されたことだ。企業は不採算部門を切り捨て、新規採用を減らし、借入金を返却してコストを圧縮した。それと同時に、経営資源を得意分野に集中し、生産性の向上に成功した。その結果、高級製品の輸出が伸び、また収益が増加し、設備投資が拡大した。

若者が「おたく」文化創造

ところで、企業がリストラを実施する過程では賃金が抑制され、また若者は職に就けないために、フリーターや引きこもりが激増するという歪みが発生した。若者は、就職先がないという閉塞感から逃れるために趣味に打ち込み、それが高じて「おたく」になる人が増えた。東京のアキバ(秋葉原)は、彼等が集まる場所であり、路地裏には小型店がぎっしり並び、そこでは、マンガ、アニメ、模型鉄道、フィギアー(アニメの主人公の人形)や、「おたく」向けの多様な情報誌が売買されている。彼等はそこの「メイド喫茶」で孤独で疲れた心を慰めている。「メイド喫茶」は、「おたく」に関心がある若い女性が是非勤めたいと願っている憧れの場所だ。

中国や韓国の若者に、最も人気がある観光スポットはアキバであり、彼等はアニメやフィギヤーに惹き付けられている。アキバ文化は世界に広がり、「カワユイ」、「ヤメテ」と云ったアニメの言葉は、アジアや欧米の若者にそのまま通用するようになった。日本語を学ぶ外国人は、過去、10年間で2倍も増えた。「おたく 」が、国際的に通用する新しい文化を創った。

振り返ると、国民は超低金利とリストラの犠牲になったが、幸い、超低金利の時には、消費者物価が下がっていたので、実質金利が1~2%程度となり耐えやすかった。リストラの犠牲者である若者は「おたく」文化を創造して、日本経済の粘り強さを示した。

こうした中で、公務員は省庁や市町村を合併したが、未だコスト削減の成果も、目立った文化的な業績もあげることができず、また賃金の切り下げという犠牲も払っていない。下手をすると、彼等は景気上昇に伴う税収増加というメリットだけを吸収する恐れがある。

ページのトップへ