静岡新聞論壇

4月

表裏一体の米中経済

低賃金労働力と外資の技術

中国経済の強さは、まず膨大な数の貧しい労働者が存在することだ。工場や建設現場で働いている農民は二億人に達し、平均月収一万円強で、一二時間以上も働いている。

つぎに、党官僚が土地をほぼ自由に処分できることだ。例えば、市当局が農民から土地を安い価格で強制収用し、それを工業団地ディベロッパーに売却して鞘を稼ぎ、それによって道路や水道を建設する。外資が国や市当局の優遇政策に惹かれて、そこに工場を建設するのだ。そこで生産された製品の主たる販路は海外市場であり、低賃金労働力と外資の技術に依存しているので、輸出競争力は強大である。

最近、貧富格差の拡大や環境破壊の問題が深刻なっているが、国民の生活水準は向上し、また経済大国になった満足感が国中に染み渡り、さらに共産党が信頼を得ているので、中国経済の強さは、当分崩れそうもない。

ところで、アメリカの人権外交は政権の基盤を揺るがす力を秘めているので、中国政府は絶対にこれを認めることはできない。幸いにも中国は巨額な輸出によって世界一の外貨準備額になり、その外貨の一部をエネルギー資源獲得に投入して、アメリカの世界覇権を脅かしている。中国の国営石油会社は、アフリカでは、ナイジェリアを始め幾つかの国でアメリカのメジャーとの利権獲得に競り勝ち、またベネズエラやイラン等、札付きの反米産油国で原油や天然ガスの開発投資を進め、さらに、カピス海沿岸諸国でも産油投資を拡大しつつある。南米諸国で反米政権が続々と誕生した一因は、中国の反米姿勢への期待があったからだ。

中国は、現在、外貨準備の七〇%近くをアメリカ国債等のドル建て金融資産で運用しているが、それを外交手段に使うわけにはいかない。もし、中国がドル資産を大量に売却すれば、ドルの暴落とドル金利の急上昇が発生して、アメリカ経済は深刻な不況に落ち込むだろう。

その結果、第一に中国経済の成長を支えていた対米輸出がとまる、第二にアジア経済も不況になり、アジアにおける中国の地位が急落する、第三に中国の手持ちドル資産が急激に減価する。つまり中国経済が大不況に襲われ、それとともに、国内の鬱積した不満が暴発する恐れがある。

日中が米の供給力不足カバー

ところで、アメリカ経済の特色は、供給力より需要の方が遙かに大きいことだ。それは低金利と住宅投資減税に支えられて、住宅投資と個人消費が膨張し過ぎた上に、戦費支出が拡大し、財政赤字が増えたためだ。それでも、アメリカ経済が破綻しなかったのは、中国が一般工業品を輸出し、日本が高級品を輸出してアメリカの供給力不足をカバーし、さらに、それによって獲得したドルを、両国がアメリカ国債等のドル資産の購入に充て、アメリカに環流させたからだ。

また、アメリカ企業は、中国に建設した現地工場によって大儲けしているので、中国は大切な国だ。つまり、米中経済は表裏一体の関係にあり、そうした中での覇権争いであるから、お互いに図太い神経と手練手管が必要である。

中国はロシアに接近し、アジア諸国との外交と経済関係を深め、さらに世界の反米諸国を支援しているのに対し、アメリカは中国の宿敵であり、かつ核保有国であるインドの原子力政策を支持し、さらにイラク戦争を通じて中東の石油資源の完全な支配を狙っている。親米、反中の傾向が強まった日本は、せめて対インド投資のウエイトを高め、同時に巨大な産油国・イランとの友好関係を保ちたいものだ。

ページのトップへ