静岡新聞論壇

6月

ドル危機はらむ米過剰消費

赤字拡大も経済好調

アメリカでは輸入が増加し続けた結果、2005年には経常収支赤字が8000億ドル、その対GDP比は約7%に達した。かって1985年に、経常収支赤字の拡大によって、アメリカ経済が危機に落ち込んだ時(プラザ合意)、この比率は3.5%だった。現在の赤字の大きさが解るだろう。

アメリカは、経常収支赤字を埋めるために、海外諸国から借金(国債や社債の売却)を増やし、その額はGDPの25%に達しており、数年先にはGDPの50%以上になりそうだ。金利を5%とすれば、毎年、GDPの2.5%金額を海外諸国に移転しなければならない。常識で考えればアメリカ経済はとっくに破産し、ドルが暴落しているはずだ。

それにも拘わらず、アメリカ経済が、好調に推移している理由は何か。まず、第1にアメリカ経済ではIT化の効果が上がり、省力化が進み、毎年生産性が3%近く向上した。

第2にアメリカの投資銀行等が海外で膨大な利益を上げ、その利益総額は借金の支払い金利総額と同じぐらいの大きさである。

例えば、投資銀行は、日本では、銀行が不良資産を処理する過程で、破綻企業、破綻ゴルフ場、破綻金融機関(日本長期信用銀行等)を二束三文の安値で買い叩き、それを再生させて高値で売却した。30兆円以上の利益を上げたと云われている。さらに、株式市場で安値の株式を買い、高値で売ってボロ儲けした。アメリカ経済は、海外への支払い金利が増えても、ビクともしなかった。

第3に、日本を始めとする東アジア諸国は、経常収支の黒字によって生まれた膨大な過剰資金を、経済が好調であるアメリカの国債、社債などの証券に安心して運用した。

こうして、04年、05年には、それぞれ経常収支の赤字を相当に上回る1兆ドル、9000億ドルの資金がアメリカに流入した。その資金の多くは、最終的に銀行へ集まったので、銀行は長期・低金利の住宅ローンや、住宅担保の低利消費者金融に力を入れた。その結果、住宅ローンの増加と住宅価格の上昇が相互に作用し合って、住宅バブルが発生し、また消費もローンに支えられて伸びた。

アメリカの景気が拡大すると、日本・中国を始めとする東アジア諸国の対米輸出が伸びた。それらの国では、輸出の増加から生まれた過剰のドル資金をアメリカに投資したので、長期資金が潤沢になり、アメリカの住宅投資がさらに伸び、景気が一層上昇するという循環が出来上がった。

海外債務金利が負担に

ところが、最近、金利が上昇してきたので、住宅ブームが終わりそうだ。また日本では、金融機関も企業も完全には立ち直った。東アジア諸国は、ドルの金融資産を豊富に持っているので、97年のような通貨危機が発生して、多くの企業や銀行が倒産の危機に追い込まれ、アメリカの投資銀行によって二束三文で買収されることはない。つまり、アメリカの投資銀行が大儲けするチャンスが消えた。今後、アメリカ経済にとって、海外債務の金利が大きな負担になりそうだ。

そうなると、アメリカ経済に対する信頼性が次第に弱まり、海外からのアメリカへの投資が減り、ドルが暴落する可能性が生まれてくる。悪いことに、ドルが暴落して輸入価格が急騰しても、アメリカの輸入は減りそうもない。それは多くの製造業がアメリカから日本や中国等に移っており、急には工業製品を造れないからだ。アメリカは、軍事力と金融業が圧倒的に強いが、それだけではドルの暴落を防げない。

アメリカ人が過剰消費を改めない限り、何時の日かドルが暴落して世界経済が混乱するかもしれない。最近、ドル安傾向である。ドル安になる度に、こうした不安が生まれてくる。

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