静岡新聞論壇

3月8日

ゼロ金利政策の転換

銀行へ潤沢な資金供給

日本銀行の金融政策について、ゼロ金利政策(量的緩和政策)から、普通の金利政策に転換すべきかどうか、広く議論されてきた。ゼロ金利政策とは、まずコールレート(無担保・翌日物)をゼロにすることだった。そのため、日銀は銀行に対して手持ちの長期国債等の買い上げによって、潤沢に資金を供給した。その資金は銀行の日銀当座預金になり、最近では、その総額な30~35兆円という巨額に達している。

その結果、銀行は毎日の資金繰りに必要な資金を、この当座預金の取り崩しによって調達できる。正常な時期には、銀行はそれをコール市場で調達したが、その必要がなくなったので、コールレートはゼロになった。

このようなゼロ金利政策は2001年から始まった。その当時、企業は、まだ借入金が多く財務内容が悪かったので、懸命になって、従業員を減らし、設備投資を圧縮して、生まれた収益によって、銀行借入金を返済していた。

そのため、日銀がゼロ金利政策によって、銀行が1%強という超低金利で融資できるようになっても、良い借り手が見付からなかった。また社債を発行する企業も少なかった。つまり、金融超緩和政策の効果がまるで表れなかった。

日銀は、知恵を絞り、次のような「約束」を発表した。「現在のゼロ金利をずっと続ける。景気が回復し、消費者物価が上昇してもなお暫く様子を見て、今後、景気が上昇するという見通しが確実になった時に、ゼロ金利政策から金利政策に切り替える」。その時には、企業は、収益が増大しているから、金利が上昇しても困らないはずだ。

もし、今後、長い期間にわたってゼロ金利が続き、それに影響されて長期金利もずっと1%台であることが確実であれば、企業は慌てて設備投資を圧縮し、銀行借入金を返済する必要がない。それどころか、資金を借りて設備投資したいという気になるに違いない。

幸いにも、輸出の増大とゼロ金利政策が効いて2002年から景気が少しずつ上向き始め、最近になると、多くの企業が未曾有の高収益を上げている。設備投資が拡大し、また雇用の拡大とともに人手不足が目立ち、賃金が上昇している。大都市中央部の不動産価格が騰貴し、株価も高くなった。消費者物価は、1月まで4ヶ月続けて上昇している。

日銀と政府に思惑の違い

日銀は、この情勢を見て、景気の過熱を防ぐため、ゼロ金利政策を中止して、金利政策をに切り替える準備をしたい。これに対して、政府は、金利の引き上げによって、景気が抑えられると、税収が減る上に、国債に支払い金利が増えるので、ゼロ金利を可能な限り引き延ばしたいと考えている。

現在、人手に余裕がある北海道や東北地方で、工場の新増設が活発であり、人手不足が克服されつつある。不動産価格が上昇したといっても、賃貸料でコストをカバーできる範囲内にあり、到底バブルとは云えない。投機的現象が見られるのは、一部の株式だけであるから、景気を抑制する必要はない。

ゼロ金利政策にはいろいろな無理がある。例えば、預金金利が低く抑えられ、国民の金利収入が減っただけ、企業の支払い金利が軽くなって高収益をあげ、銀行も収益力を回復した。国民が企業・や銀行を救うというのは、如何にも情けない話だ。日銀は、さし当たって、日銀当座預金を徐々に10兆円以下に引き下げ、銀行が不足資金をコール市場で調達するという正常な状態に戻すべきだろう。それが正常な金利政策にスムースに転換する道である。

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