静岡新聞論壇

1月

三つの事件

最近、耐震構造偽造、東京証券取引所(東証)の売買取引の停止、ライブドアの粉飾決算・株価操作等、深刻な不正事件やトラブルが次々と発生した。この中で、日本の経済社会に対する影響が最も少ないはライブドアの事件だろう。

ライブドアは、球団やフジテレビの買収工作、堀江氏の衆議院議員立候補等、話題を絶え間なく提供して名前を売り込み、また堀江氏が次の日本経済を担う経営者の代表のように思わせた。その評価を利用して、細かい株式分割、粉飾決算、株式交換による合併等の怪しげな手を使って、個人投資家を呼び込み、株価を高めることに成功した。

抜け目なく儲けようと考えた個人投資家はライブドアの株式を買ったが、不正の発覚に伴う株価の暴落によって損失を被った。彼等は騙されて残念だろうが、明日からの生活が困る程の損失ではない。またライブドアは経営危機に落ち込み、堀江氏が悪者に変わったが、それによって、日本経済の回復力が衰えるわけではない。日本経済から見ると、それは大事件とは云えない。

ところで、ライブドアの不正が明るみ出た18日に株価が激しく動き、膨大な数の株式が売買され、遂に東京証券取引所(東証)の処理能力を越えそうになった。そのため、東証は定刻20分前に市場を全面閉鎖し、翌日午後、定刻30分後に市場を開くことを決め、かつ証券会社に株式売買の自粛を要請した。

そもそも東証にはライブドアの不正を見逃したという責任がある。これでは証券取引所の機能を放棄したようなものだ。

東証は、昨年11月にプログラムミスが発生し、続いてみずほ証券の誤発注に際して、取り消し処理に応じられなかった。世界の証券業界は、今回の事件で東京証券市場のソフトの虚弱さに驚き、まるで発展途上国のようであって信頼できないと酷評され、東京市場は国際的な信用を失った。

耐震構造計算の偽造は、政府の信頼を著しく損なう事件だった。建築構造の検査機関は、政府の認可を得ているから、当然正しく審査するはずであるが、実際には、偽造を見抜く力を備えていなかった。被害にあった人は、政府が建築許可を与えているから、耐震力が弱いとは夢にも思わなかっただろう。政府の建築許可が当てにならないならば、私達はマンションを買う時、何に頼ったらよいだろうか。

世間はライブドアの不正問題について捜索の行方に注目しており、東証問題は忘れ去られつつある。国会ではヒューザーの社長等を証人喚問して、犯人捜しや背後にいる政治家捜しをやっている。どうも焦点がぼけているようだ。

東証問題についてみると、ニューヨーク証券取引所は平均取引数の2倍以上を処理する能力を持っていたが、東証は1.5倍と少ないので、ライブドア事件に伴って発生した市場の激動に対処できなかった。能力拡大投資が遅れた原因はなにか。それは東証が証券取引市場で独占的地位を占め、競争相手が弱いので、設備投資を先送りしたかもしれない。かって大蔵省は6代にわたって大物OBを理事長に送ったので、官僚的体質が残っているという説もある。何れにしろ、この独占的企業を監視する方法が検討されるべきだ。

建築構造の検査制度が機能していないのは、国土交通省が予算の獲得・執行というような権限の維持・拡大には熱心であるが、検査機関の能力チェックといった省益に繋がらない仕事には力が入らなっかたためだろう。

国会は果実が少ない証人喚問を止め、代わって東証や国交省の責任者を参考人招致し、大事件の原因を究明して、改革の仕組みを討論すべきだろう。

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