静岡新聞論壇

2月21日

株式市場にらむ「怖い検察」

株価上昇狙った堀江前社長

ライブドアの元社長の堀江氏に対して、つい最近まで、新時代を切り開く経営者として高く評価する人が多かった。彼は自社の株式時価総額を高めることを経営目的にするというアメリカ的な経営を実践した。また新しい企業の参入を許さなかったプロ野球やテレビ業界に、企業買収という方法で果敢に参入を試みた。

それは、古い体質の業界に新風を吹き込むように見えた。彼の型破りの言動や服装と、東大中退という学歴と、三十三才で築いた巨万の富が、古びた文化の破壊者に相応しかった。小泉さんも武部さんも、また経団連の奥田会長もこの華々しさに眼が眩んだ。

ところが、堀江さんの企業買収を繰り返し、「金で何でも買える」という言動を批判していた人も少なくなかった。企業は物ではなく、働く意欲を持った人の集団であり、それぞれ固有の企業文化を持っている。もし、企業が物のように売られ、新しい経営者がやって来て、組織を変え利益追求のためにがむしゃらに働かせられたら、企業文化が消え、優れた能力を持った社員は失望して続々と退社するだろう。

今や物が溢れる時代になったので、消費者の要求は高度化する一方であり、企業は高級な素材と斬新なアイディアとを結びつけた新製品を次々に開発し続けなければ、生き残れない。企業にとって、最も必要なのはアイディアを生みだす優れた人材だ。

専ら株価の上昇を狙って企業を買収すると、その企業が潰される可能性がある。それは国民経済的にみて、明らかに損失である。批判者は、堀江さんを新しい産業社会の創造者ではなく、既存社会の破壊者であって有害だと考えた。

堀江さんは逮捕されたが、まだ罪を認めていないと云う。それは当然かもしれない。1つ1つの取引をみると、それほど悪質な犯罪を犯しているわけではない。買収先企業に対して事前に増資させ、債務超過を解消してから、株式交換によって合併・買収するという方法は、合併・買収市場ではよくあるやり方だ。

利益をかさ上げするために、自社株の売却という資本取引を、売上げ高に計上したのは、確かに違法な粉飾決算ではあるが、利益に計上したために、多額の税金を支払っており、それほど悪質な粉飾決算ではない。

監視甘かった東証、証取委

しかし、ライブドアの経営を全体としてみると如何にも悪質だ。合併・買収の時期を偽り、また、株式を累計一万分割し、さらに粉飾によって利益をかさ上げした。今になってみれば、プロ野球やテレビ会社の買収への挑戦や選挙への出馬も、時価総額の上昇を狙ったと云われても仕方がない。

粉飾決算や人為的な株価操作は、本来なら、東京証券取引所や証券取引等監視委員会が摘発すべきだったが、ずっと見逃されてきた。もし、東証や監視委員会の監視能力が優れていたならば、堀江氏はあくどい株価操作を諦めていたかもしれない。彼は株式市場に対する監視体制を甘く見て、合法・非合法すれすれのところで株価操作を繰り返した。

検察当局からみると、それは目に余る行為であるから、彼は突然逮捕され、英雄から悪者に転落し、ライブドアから追われた。彼を評価していたジャーナリズムも一斉に態度を変えた。

検察当局は、株式市場には複雑な方法で株価を操作して、汚く稼ごうとする企業が必ずいるから、株式ブームの機会に一罰百戒の意味を込めて逮捕しただろう。堀江氏の派手な行動が仇になった。政府の役割は規制緩和によって「事前規制」から「事後監視」に変わったが、現在のところ、実質的な監視役は怖い検察が引き受けている。

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