静岡新聞論壇

9月

恵まれた環境の世襲議員

自民党総裁の候補者も

自民党総裁選挙の候補者は、絵に描いたようなエリートばかりだ。安部さんは祖父が首相、父は首相の最有力候補だった。麻生さんの祖父は首相、父は国会議員でかつ九州財界のリーダーであり、谷垣さんは文部大臣の息子だ。立候補を諦めた福田さんは首相の息子である。小泉さんは3代目の国会議員だった。過去の首相を振り返ると、小渕、橋本、羽田、宮沢の各氏は何れも国会議員の息子であり、細川さんは近衛首相の孫だった。

エリート政治家は野党にも多い。鳩山家は日本を代表するエリート家系であって、鳩山由紀夫氏の曾祖父は国会議長、祖父は首相、父は大蔵大臣という華やかさである。小澤さんや横路さん等の大物も、2世議員である。今では、国会議員の半分近くが2世であり、大臣や派閥リーダーが世襲議員で占められている。

2世議員が選挙に強い理由には、つぎの諸点があげられる。第一に政治家としての優れた素質をDNAで受け継いでいる。それは、芸能人や作家に2世が多く、若の花と貴乃花が強かったのと同じ理由だ。

第2に父親の後援会組織を継承できるからだ。秘書陣と後援会は国会議員の従業員であり、優れた従業員がいれば選挙に勝てる。議員が引退する時、彼等は失業を免れるために、相応しい後継者を探し、頑張って当選させる。二世の新人候補は明らかに有利である。

第3に恵まれた家庭環境だ。政治家の家には多様な利害関係者が出入りするから、議員の子弟は生きた政治を学ぶことができる。また多くの地方の議員は子弟を東京の超一流中学や高校に入学させる。安部さんは選挙区が山口県であるが、小学校から大学まで成城学園だ。福岡県の麻生さんは幼稚園から大学まで学習院である。京都府の谷垣さんは麻布高校・東大出身だ。

政治家の子弟は大学卒業後、少しの期間、一流企業や中央官庁に勤める。また政治家、名門企業のオーナー、中央官庁の幹部等の子女と結婚する人が多い。こうして、彼等は生きた政治の知識、学問教養、外国語、エリート層の人脈などを豊富にもち、選挙民が憧れる人物に成長するのである。

現在では、普通の人が国会議員なるのは困難であり、仮になれたとしても、60才近くなっているので、目立った活躍ができない。これに対して、2世議員は若くして議員になり、国会の専門部会で長く活動するので、知識に厚みが加わり、中央官庁の役人と論争しても、決して負けないだけの実力を持っている。そうした後、幾つかの大臣を歴任すれば、総理に相応しい見識を備えた人になれる。

底辺の人救えるか

どうも、日本は、確実に階層社会に変わってきたようだ。政治家という階層は再生産され、子供の時からエリート教育され、経済大国に相応しい知識・教養を備えた政治家をつぎつぎに生み出している。それは素晴らしいことであるが、問題は、それと同じように、社会の底辺では、フリーターが再生産され、希望のない荒れた生活が悲惨な犯罪を引き起こしているように思われることだ。

若い時に、一旦、フリターに落ち込むと、社員になる機会が失われ、生活が安定しないので、結婚相手が見付からない。幸い結婚しても、生まれた子供に充分な教育を与えたり、家庭で躾けたりする時間的・経済的余裕がないから、子供の将来はフリーターになる可能性が高く、病んだ心が再生産されかねない。

ところで、多くの政治家は、農漁業、工場の現場、道路工事等で働いたことがないだろう。貧しさのため進学できない友達もいないに違いない。育ちの良い彼等が、社会の底辺に沈んだ人々を救えるだろうか。彼等にとって重要なのは外遊ではなく、底辺に苦しむ家庭を秘かに訪れ、彼等の気持ちを聞くことだ。

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