静岡新聞論壇

9月11日

イスラム国の新兵器・公開処刑

恣意的に分割された国々

イスラム国は汚い手を使った。米国のジャーナリストの首を切断する映像を世界に発信し、米軍が攻撃を止めるまで、公開処刑を続けると言う。

バイデン副大統領は激怒し、イスラム国を全滅させ、犯人を地獄の門まで追い詰めることを誓った。世界中の人は、このシーンに驚愕し、悲惨な時代に入ったことを知った。

イスラム国側はこれを正当な戦術と考えているだろう。米軍が、イラクのイスラム国・軍事拠点に空からミサイル攻撃を続け、目標周辺の地域を一瞬にして破壊している。その際、女性・子供を含む民間人を巻き添えにし、公開処刑以上に凄惨な場面が連日、目にしているのかもしれない。

一方、米国の空爆は無人機や攻撃機からミサイル発射ボタンを押すだけ。誰も現場の地獄絵を想像せず、単なるIT戦争だと思い、平然としていられる。軍事力が圧倒的に劣るイスラム国にとって、効果的な報復手段は公開処刑の発信である。米欧軍が攻撃を続ける限り、米国人や英国人を狙うという。

振り返ると、第1次世界大戦後、英国とフランスは敗戦国・オスマン帝国の領土を分割した際、民族意識が強いアラブ人がまとまるのを恐れて多宗教・諸派を恣意的に分割し、モザイク状に組み合わせ、イラク、シリア、ヨルダン、レバノン、パレスチナ、イスラエルなどを創った。狙い通り、激しい宗教間・宗派間の争いが続き、結局、各国で強力な宗派の独裁政権が生まれた。米国は第2次世界大戦後、石油資源を確保するため、それぞれの独裁政権を支持して、中東を支配した。

ところが、米国の経済力が低下し、またアフガニスタン、イラクで戦争が泥沼化するとともに、イスラム教徒の勢力が強まり、シリア、イラクでは、原理主義者が国境を無視したイスラム国の建設を開始し、他の宗派や欧米諸国との戦いが激化した。

無差別テロに走る若者も

欧米諸国では、イスラム教諸国からの移民1世や2世が貧しい生活を送っており、彼らの子弟は、未来のない人生と、麻薬や同性愛等イスラム教徒にとって許せない欧米社会に絶望している。イスラム原理主義者は、全員が戒律にのっとった生活を守り、かつジハード(聖戦)によって天国への道が開けると信じている。若者は原理主義集団に惹かれ、イスラム国建設の戦争に参加しており、その数は1万人近くに達したという。

彼らの中には、帰国して無差別・自爆テロに走る者がいるだろう。米、英、仏等でさまざまなテロが予想され、それはイスラム国にとって公開処刑と並ぶ強力な武器になる。これらの武器を使いすぎると、世界を敵に回すが、シリアの拠点への空爆の開始といったタイミングに合わせると、効果的である。

世界の覇権者の力が弱まる時期には戦争が多発するという傾向がある。中国の軍事的膨張、ウクライナを巡るロシアとNATOの対立、イスラム原理主義者のテロ、日中・日韓対立など、その兆候が目立っている。安倍内閣の慎重な舵取りが望まれる。

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