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7月6日
楽観的にみる「空気」の危険
第2次大戦をほうふつ
サッカーワールドカップの試合前には、ジャーナリズムでは、1次リーグを突破するという希望的「空気」の予想が多かった。中には優勝の可能性ありという専門家もいた。ところが、世界の一流チームのプレイをテレビ観戦すると、私のような素人でも、日本チームとの技術格差がひどく大きく感ぜられた。
こうした楽観的展望は、第2次大戦の頃を思い出させた。日本軍は圧倒的に強く、忽ち、米英の陸海軍に圧勝するという宣伝が行き渡り、私は敗戦近くまでそれを信じていた。
大戦前に陸海軍がそれぞれ一流の経済学者に依頼した分析は、資源不足のため、いずれも2年以内で敗れるという結論だった。強気の陸軍の幹部の中でもアメリカとの戦争を避けるべきだという意見が強かった。それにも拘わらず、政府は情報を隠し、ジャーナリズムが「空気」を盛り上げ、国民は戦争に賛成した。
日露戦争では、日本軍は刀折れ矢尽きる寸前だった。アメリカの仲裁によって、やっとポーツマス和平条約に漕ぎ着けたが、新聞と国民は賠償金が少ないことに怒って戦争続行を叫び、日比谷焼き討ちが起きた。残念ながら、明治中期以来の日本では、新聞と国民は楽観的外交見通しに立つことが愛国的であるかのような「空気」が生まれた。
ところで、振り返ると西ヨーロッパ諸国が中央集権の強国になったのは18世紀になってからであるが、中国では紀元前3世紀に中央集権国家の秦が生まれ、土地の国有化、官僚制度、度量衡や漢字の統一等が実現した。
中国の個人は血族系統の中に存在し、自分の生命は古代から永久の将来まで、祖先と子孫の中に生きており、そのための原理が「孝」であり、家族を軸として膨大なスケールの血縁共同体が生まれ、それらが幾つも集合して国家が形成された。中国では西欧的な独立した個人は存在しない。
紀元前6世紀ごろに生まれた孔子の思想は、その後、国家が繁栄、内乱、異民族支配の過程を繰り返す中で、現在まで受け継がれ、「徳治」(独裁政権)が共同体群を統一し、長い歴史の中で民主的政権が1回も成立しなかった。
自制が重要な日本外交
現在でも、多様な大型共同体集団が存在し、胡錦濤から習近平への政権交代は、密室の幹部会で激しく静かな論争の末に決まり、優れた共産党官僚が「徳治」の担い手になっている。東アジアでは多数の華人集団が経済実権を握っている。
アメリカは、異質な大国と太平洋で覇権を争う羽目になり、懸命に共存の落としどころを探っている。「集団的自衛権」の目的は、アメリカの軍事力を補強して、中国に対する抑止力を高めることである。習近平氏は韓国を味方に付けて、日韓、米韓の分離を狙い、異例な方法で訪韓を実現した。
しかし、日本の雑誌や週刊誌では、中国の貧富の格差や少数民族問題等の恥部を過大に取り上げ、中国側にウエイトを移した韓国を口汚く罵る「空気」が高まっている。それは、集団的自衛権を持った日本にとって危険極まりない。自制が重要だ。