静岡新聞論壇

9月17日

ドイツ、移民国家に向かうのか

人種差別政策深く反省

ドイツは最も活発な移民国家である。総人口に占める外国生まれ人口の比率は20%近くに達し、アメリカやイギリスを軽く抜いた。ドイツの出生率は30年前に1.4人に落ち、2012年には1.38人と日本の1.41より低下してしまった。それにともなう労働力不足は、周辺の貧しい国の移民・難民によってカバーされ、今まで経済は堅実な成長を続けた。

イギリスやフランスなどヨーロッパの高賃金国でも1930年頃から出生率が低下し、移民によって人口が維持された。しかし、約20年前から、出産・育児助成政策の結果、出生率が上昇し、とくにフランスでは2人に達し、英仏両国では移民が不必要になった。

ところで、シリアで内戦が激化し、最近では年間400万人の難民が発生し、その多くは、トルコ、レバノン、ヨルダン等、隣国の不衛生な難民キャンプで生活している。

難民でいくらか資産を持っている人は、それを売り払い、仲介業者を頼って、入国がルーズなギリシャやイタリアに舟で渡り、その半分近くがドイツへ向かう。今年の前半だけで、18万人がドイツへ難民申請し、10万人が受理され、今年中に申請者が80万人に達すると言われ、シリア人の難民問題に紛れて、生活水準の上昇を狙うバルカン半島からの移民も急増している。

ドイツが難民・移民に寛容な理由は、まず、第一に第二次世界大戦中にユダヤ人やロマ人を抹殺した人種差別政策を深く反省していることである。第二の理由は労働力不足の防止である。第二次世界大戦後、毎年(東西合併時を除く)、約13万人の移民を受け入れ続けたが、それでも、人口は2003年をピークとして、昨年までで100万人以上も減少した。

移民労働者は、子供にドイツで生計を立てられる教育を与え、かつ両親に仕送りをしている。いったん職を失うと、新たな就業先を見つけ難いから熱心に働き、犯罪率は固有のドイツ人より相当に低い。難民・移民はドイツに来るための旅費や宿泊代を用意しているから、母国では中産階級であって働く技術と基礎学力を身につけているはずだ。ドイツにとってみると、アラブ移民は、普通のドイツ人並労働だけではなく、低賃金・単純作業にも耐える良質な労働力と言えよう。

少子化問題巧みに利用

第三に、難民の受け入れは、人権尊重を主張しているEUの義務であり、ドイツが進んで難民・移民を受け入れ、国際的地位の向上を目指したことである。

ドイツ東側では、ネオ・ナチ・グループが反難民運動を起こしている。しかし、西側では、先週、ブタペストから1万人を超える難民・移民が汽車で大都市に到達する都度、市民は食料や玩具を持って歓迎し、難民・移民は「ドイツ・ドイツ」と歓声を上げたという(ロンドン・エコノミスト誌より)。

ドイツは、難民・移民を人口・経済力に応じて、16の州に割り当て、住宅や生活を補助しているが、その考え方をEUに広げようとし、ギリシャ問題に続いて難民問題でも重要な役割を果たして、負の歴史を帳消しにしている。少子化問題を巧みに利用したといえる。

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