- 2015年
-
- 学問の過度な細分化 (12/24)
- 中国の実力と壮大な野望 (12/10)
- 追い詰められた社会の人々 (11/26)
- 成長戦略は賃金引き上げ (11/12)
- 米中ロの覇権争いゲーム (10/29)
- ノーベル賞学者が育った時代 (10/15)
- ドイツ、移民国家に向かうのか (09/17)
- 専門家と広い見識 (09/03)
- 中国の過剰設備と世界の不安 (08/20)
- 中国は日本だけ攻撃する (08/06)
- ギリシャ問題 鍵はドイツ (07/23)
- 幸せな人生と尊厳死 (07/09)
- 日韓国交回復直後の20年間 (06/25)
- 米中対立の思想的背景 (06/11)
- 止まらない韓国の反日運動 (05/28)
- 台頭・中国とAIIBの狙い (05/14)
- 二つの独裁国家の生き方 (04/30)
- AIIBに参加すべき (04/16)
- 広い観点に立った人材育成 (04/05)
- サービス業の成長と文化サロン (03/19)
- 米金利引き上げに伴う難問 (03/05)
- 「宗教戦争」激化の様相 (02/19)
- ユーロ圏のデフレ危機 (02/05)
- 拡大する反イスラム感情 (01/22)
- ドイツ、ロシア、中国の結束 (01/08)
- 2014年
- 2013年
- 2012年
- 2011年
- 2010年
- 2009年
- 2008年
- 2007年
- 2006年
- 2005年
- 2004年
- 2003年
- 2002年
- 2001年以前
6月11日
米中対立の思想的背景
天命じた皇帝が統治
中国と欧米諸国とは思想の根本が異なっているので、相互理解が困難である。中国では、欧米のように神の前に立つ「独立した自我」は存在しない。
中国の伝統的考え方では、自分の生命は何万年も遡って存在し、今後も永久に子孫の中に生きていく。個人は祖先から子孫へ流れる永遠の生命の一つの器にすぎない。
孟子は「天下の本は国にあり、国の本は家にあり、家の本は身にあり」と述べ、個人から皇帝まで家庭・家族を原点とした祖先崇拝の儒教の価値体系を尊び、皇帝の徳による政治が行われた時に、武力なしで安定した社会が生まれると主張した。儒教は、現在まで中国人の思想の中に生き続けている。
中国では、全ての宗教の上に立つ神がいない。儒教、道教、仏教の「三教」は、いずれも天が命じた皇帝の支配下に置かれ、「儒教は世を治め、仏教は心を治め、道教は身を治めて相補い」、皇帝による徳の政治の基盤を固めてきた。
中国では何回も非漢族王朝が生まれ、保守的な漢族では実現不可能な大改革を行った。モンゴル族が支配した元は、中国の市場や交通網を東ヨーロッパにまで広げ、満州族の清は、チベット、新疆ウイグル、モンゴルを支配下に収め、現在の中国の領土をつくった。元や清は中国を滅ぼしたのではなく、それぞれ新しい中国を建設したのである。
秦が成立して以来、多数の王朝が生まれ、中国はずっと存続し、非漢族王朝が統治した時に大発展した。次の漢族王朝は変化し過ぎた思想・習慣を伝統へ戻し、中国は「三教」に支えられた特殊な大国として、2千年以上も存在し続けている。
中国は19世紀後半から列強の半植民地になった。しかし、毛沢東が列強を追い出し、鄧小平が市場化政策をすすめ、中国を世界一の工業国に押し上げた。同時に、腐敗、貧富格差、環境汚染、金銭欲望の弊害が深まり、皇帝の徳による政治が破壊された。
民主政治は生まれず
多くの中国人は、国民が自由勝手に振る舞い、また無能な指導者を投票で選ぶ民主制より、エリート集団から信頼される人物を君主に選び、独裁的に行動する政治体制の方が優れていると思っている。中国には一度も民主政治が生まれなかった。
習近平主席は、国民が伝統へ復帰し、礼を尊び、皇帝に従うことを期待し、自らは腐敗と格闘して成功を収めつつあり、実質的な皇帝の地位に就きそうだ。
ところで、昔の東アジアにおける国家間は、冊封関係に基づく上下の身分関係で結ばれ、中国皇帝を君とし、臣たる周辺諸国の序列が決まっていた。その慣習が最近まで残り、毛沢東は共産党政権を設立した当初、2回訪ソした以外、外国に出掛けなかった。世界主要国の大統領や首相は、全て、天子たる毛沢東と北京で会見した。
多くの中国人は中国の天下が来ると考えている。アメリカが日本に軍事的助力を要請している時、中国はロシアが加わっている上海協力機構でリーダー役を務めている。米中の対立の背景には中国独特の重い歴史と伝統があり、相互理解には長い期間が必要だ。