アジア動向

静岡新聞論壇 10月29日掲載文

米中ロの覇権争いゲーム

シリア内戦、三つどもえ

シリア難民は世界的な問題になり、やがて、資金提供だけという日本の姿勢は、許されなくなるだろう。EUでは、多くの国で難民が国家秩序を脅かす可能性が強まり、ドイツ・メルケル首相のEU各国に割り当てるという提案が難航している。難民問題はシリア内戦が終結しない限り続く。

シリア内戦は、アサド政府、反政府軍、「イスラム国」の三つどもえの戦いであるが、反政府軍の中では、自由シリア軍や多数のスンニ派過激派間の抗争があり、混乱の極みにある。

シリアは、フランスの統治時代に分割統治のため、人口の10%にすぎないアラウィー派が優遇され、統治の一端を担った。アラウィー派は、それまでシリア西部の山中で、最下層の生活者の異端宗教と蔑まれていた。

前アサド大統領は、クーデターで政権を握り、キリスト教徒等加えた30%足らずの人口を基盤として、70%のスンニ派住民を押さえ込んだ。スパイ網を張り巡らし、反抗者が潜む都市では、市民が容赦なく虐殺され、時には、毒ガスが使用された。もし、反体制派が政権を握った時には、アラウィー派は皆殺しにされる恐れが強く、現在のアサド政権も恐怖政治を続けざるを得なかった。

ロシアは、正教会の信者が住むシリアと、古くから深い関係を維持し、多数の留学生を受け入れ、シリアに海軍基地を置いて地中海での存在感を保ち、アサド政権を支援してきた。

アサド政権は、スンニ派を弾圧しているので、レバノンのシーア派武装政党ヒズボラや、シーア派国のイランから援助され、4年を越す内戦に耐えたが、最近、弱体になった。ロシアは、アサド政府軍の崩壊を断固阻止するため、「イスラム国」や反政府軍に対し、シリア国内の空港を拠点として猛爆を開始し、またカスピ海から巡航ミサイルを発射した。

日本の位置取り難しく

これに対して、アメリカは、スンニ派国やEUとともに自由シリア軍を支援して、アサド独裁政権と「イスラム国」を倒そうとしている。しかし、寄せ集めの自由シリア軍は、軍事訓練しても、大部分の兵士は間もなく行方不明になるから、新鋭兵器を渡せない。

アメリカは、イラク戦争で懲りており、アラブ人はアメリカ人を憎んでいるから、空からの攻撃にとどめ、また、国内世論の支持が得られないので深入りを避けており、アサド政権後の政権を展望できない。もし、「イスラム国」やアルカイダのような過激派が、政府軍との戦いの中で力を付け、政権を奪取したならば、難民が世界に溢れる恐れがある。

しかし、ロシアはイラン、イラク、ヒズボラ等、シーア派の国や集団との提携を一段と強化したので、今後アサド政権が内戦で優位に立ち、落ち着きそうである。スンニ派国の中には、アメリカより、ロシアの和平・仲介力を評価するグループが広がった。

アメリカは、中国の南沙諸島における空軍基地建設を中止できず、ロシアの中東における勢力拡大を許し、世界は米国一極支配から米中ロの覇権争いゲームに変わった。日本は、位置取りが難しくなった。外交術の向上が望まれる。

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