アジア動向

静岡新聞論壇 8月20日掲載文

中国の過剰設備と世界の不安

対中輸出減で鉄鋼業打撃

世界経済は米中経済が軸になって動いている。アメリカ経済は個人消費と雇用が増え、失業率は5%に近づき好調である。FRBは金利引き上げのタイミングを計っている。

しかし、不本意にも、低賃金・パートで働いている、実質的な失業者を加えた実質失業率は11%とまだ高く、求人が多いのは低賃金労働だけである。グローバル化とIT化によって中間層の雇用が減り、個人消費や住宅投資を支える力が弱まっている。

また、高卒と大学卒の賃金格差が大きくなったので、大学進学率が上昇し、学費の増加と相俟って、学生ローン残高は150兆円に膨張した。卒業後の返済負担が大きく、住宅投資や個人消費の伸びを抑えている。

中国経済は設備過剰問題に苦しんでいる。鉄鋼や化学など重化学工業分野で膨大な過剰設備を抱え、例えば、鉄鋼業では、実需の7億トンに対して、設備能力は世界の半分以上に当たる約12億トンに近づいているという説が有力だ。その結果、国内の鉄鋼価格は低下し、輸出は世界各地でダンピング問題を起こしており、鉄鋼企業の多くは赤字である。また世界工業国や資源国では、鉄鋼生産設備、石炭、鉄鉱石などの対中輸出が減り、打撃を受けている。

自動車産業では、販売台数が年率2桁の高い伸びを続けたが、今年の前半には1%台に低下し、需要は中古市場に移り、自動車産業が成熟期に近づいている。これに対して、自動車の生産能力は販売台数の2倍に近くに達し、激しい値引き販売が拡がっている。

不動産市場では、深圳、広州、上海、北京などの巨大都市では、政府の梃入れもあって住宅価格は上昇してきたが、普通の大都市・中都市では下げ止まらない。

業績が不振になると、借り手は返済能力を失う。重要な産業は国営であり、国営銀行の融資に支えられて安泰であるが、地方政府がつくった「融資平台」は問題である。それは一種の投資会社であって、銀行に依頼して高利な理財商品を発売し、調達した資金を地方政府が計画した地下鉄、道路、工場や住宅団地のプロジェクトに融資している。

近代化構築へ莫大な借金

最近まで、地方政府は争うように、大型プロジェクトに着工したが、成果が出ないうちに、理財商品の返済期限が到来し、財政危機に追い込まれているケースが多い。大型プロジェクトは減少し、大型土木機械の輸入が激減している。

中国は、工場、高速道路、新幹線、地下鉄、マイカー、マイホーム等、近代的な社会をつくるため、国、地方政府、家庭はそれぞれ莫大な借金をした。また企業の借入金は最近20年間に、対GDP比率が20%から130%へ激増し、日米を軽く抜いている。

この資金は、強気の見通しに立って、無駄な投資に使われた。今や、中国政府は過剰債務を解決するため、企業統合や投資の効率化に努め、また長い期間、低金利政策を続けるだろう。また輸出の拡大を狙って、為替レートを引き下げた。

もし、FRBが金利を引き上げると一層元安になり、中国製品がアメリカに押し寄せるから、引き上げの時期は先に伸びそうだ。

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