アジア動向

静岡新聞論壇 10月18日掲載文

孫子の兵法に敗れた日本

中国、土地の広さ生かす

孫子の兵法の1つは、地の利を生かすことである。中国は、最近の約100年間でも土地の広さを見事に生かした。中国にとって日ロ戦争は成功だった。中国を脅かす日本軍とロシア軍を広大な中国国内で戦わせ、日ロ両軍とも大打撃を受け、中国侵略の力を削いだ。

日本軍は42年から中国全土を侵略し始めた。中国軍は主要都市から退却したが、広大な農村地域を支配し続けた。アメリカは日本の中国支配を阻止するため、インドやミャンマールートを通して、武器援助を続けたので、中国軍は崩れなかった。

アメリカは、日本軍の侵略の息の根を止めるため、厳しい経済封鎖を続け、ついに日米戦争が勃発して、日本軍は完敗した。中国軍は広い土地を逃げ回り、アメリカを利用して、最後に日本に勝ったと言えよう。
鄧小平の開放政策とともに、世界の企業は、中国の低賃金を利用しようとして続々と工場を中国に移転した。アメリカでは、国内消費の膨張に応じて中国製品の輸入が激増した。アメリカの企業は、アメリカへの輸出製品を組み立てる工場に直接投資して高収益をあげた。東アジア諸国(日本、韓国、台湾等)では、高度な技術を必要とする中間財を中国に輸出し成長した。

しかし、中国は、次第に、高級製品を生産できるようになった。リーマンショックの時、支出された膨大な財政資金が内需を拡大し、中間財の国内生産が増え、産業構造が高度化した。外資は中国の国内市場の急膨張に注目して、自動車、IT等、高級な産業に対する設備投資を拡大し、先端技術研究所も移転している。中国は、主要産業に関して、中間財や完成品の生産だけではなく、研究開発能力も備えた。

中国は労働力不足になり、賃金は急速に増大している。中国の成長にとって外資の投資が必要な時代は終わった。広大な国内には外資の巨大な工場、販売網、新鋭研究所が存在している。中国人が経営参加している外資が増え、高品質な製品や新製品を生産しつつある。中国は外資の力によって、先端技術産業を抱える国になった。その上、継続的な対米貿易収支黒字によって、巨額なドル国債を蓄積している。

先進国の資産、「人質」に

それらの実物資産や金融資産は、先進国が中国に取られた「人質」のようなものだ。例えば、日本と外交的な問題が発生した時には、中国政府は日系工場のストライキ、日本製品の不買運動、優秀な人材の日系企業への入社の妨害、破壊的な暴力デモ等を指導して、日系企業を脅すことができる。日本は中国への経済依存度が大きいから、脅しやすい。

また、中国政府が所有する国債を全部売却すれば、中国はドル暴落によって損害を受けるが、アメリカは、ドル中心の国際経済体制が崩壊して、致命的な損失を被るので、中国の世界戦略に対して真正面から反対できない。

中国は戦わずして勝つ手段を有効に利用している。日本政府が中国の経済力の向上と孫子の兵法を理解していれば、今まで通り、尖閣諸島問題の永久棚上げに全力を投入しただろう。

 

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