アジア動向

静岡新聞論壇 12月5日掲載文

中国経済発展と制海権膨張

エネルギー供給路開拓

中国経済の長期的発展には、原油・天然ガスの安定的供給が必要であるが、その大半は輸入に依存し、その85%は米海軍が制海権を握っているマラッカ海峡と南シナ海を通過する。中国のエネルギー供給の安定性は、事実上、アメリカに支配されていると言えよう。

中国は、今後、原油・天然ガスの輸入量が増加の一途を辿るので、強国になるため、この不安定な状態から脱却したい。そこで、まず、第一に、中国の西部と南部から、マラッカ海峡を避けて、ミャンマーやパキスタンを通って、直接インド洋に抜けるパイプライン・ルートが計画され、すでに昆明・ミャンマー・ルートは完成した。

第二に、資源大国であるトルクメニスタンやイランに抜けるパイプラインと、中国の中西部や沿岸部に向かうパイプラインとを結合する壮大な計画があり、一部は着工されたという。それによって、中西部やウイグルは工業化され、中国の勢力は中央アジアの方向へ膨張するだろう。

第三に、西太平洋の覇権を巡る戦開始の好機を利用することである。アメリカの軍事力は強大であって、中国と比べると、航空母艦数は11対1、原子力潜水艦は58対5と勝負にならないが、アメリカは、今や、すっかり戦争疲れして、中東の混乱を抑えられず、覇権国としての威信を失った。

アメリカは1989年から2001年の間に、ボスニア、ソマリア等16カ月に1回の割合で、「世界の警察官」として戦争に加わり、02年以降、アフガニスタン・イラクの長い戦争に突入し、アフガン戦争はまだ続いている。アメリカは戦争という強硬な手段をとっても、多くの場合、意図した民主政権を創設できず、またアフガン・イラク戦争は実質的な敗北だった。

そうした結果、海外では信頼を失い、新興国を勢いづかせた。国内では、軍事費が拡大した上に、ブッシュ政権は大型減税を実施し、またオバマ政権は医療制度改革に熱中したので、財政赤字と貿易赤字が拡大し続け、アメリカ経済の基礎が揺らいでいる。

高まる国際的な影響力

アメリカ議会では、財政支出をカットして小さい政府にすべきか、貧困層の福祉を重視する大きな政府を守るべきか、激しいイデオロギー論争が展開され、その結果、政府はこの秋には借入金の上限引き上げに失敗して、一部の政府機関が閉鎖されるという異常な事態が起きた。

中国は対米輸出によって蓄積した巨額な資金を海外へ投資して、国際的な経済・政治問題への影響力が高まった。韓国の朴政権は、外交政策を強い中国寄りに変え一層反日的になった。

中国は、先月22日に、突然、防空識別圏を設定し、日本とアメリカの強い反対にも拘わらず、今後、その権利を強引に主張し続けるつもりである。戦争に疲れているアメリカは、中国との軍事的対決を避け、日本に対して尖閣列島は、紛争中の領土であることを認めるよう要求するだろう。中国はそれまで摩擦的行動をやめない。

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