アジア動向

静岡新聞論壇 3月5日掲載文

米金利引き上げに伴う難問

21世紀経済は弱気

21世紀の世界経済は弱気が支配している。多くの先進国ではゼロ金利という異常な事態が長引き、例えば、日本で15年間、アメリカで6年間になる。世界経済の見通しがはっきりしないので、世界の企業は実質金利がゼロになっても、設備投資をしないのである。

弱気の要因として、まず、中国では、輸出関連産業が膨大な過剰設備を抱え、金融機関は巨額な不良債権に悩んでいる。貧富の差が拡大して内乱が頻発し、大気汚染や土壌汚染が深刻である。人口が減り賃金が上昇している。中国経済の不振は原材料や部品の供給地である東南アジア諸国の経済に悪影響を与えている。

ユーロ圏では、北海側の健全財政・貿易黒字の国と、地中海側の巨額な財政赤字と貿易赤字に苦しむ国とが、経済政策に関して激しく対立し、決定的なデフレ対策を実施できなかった。欧州中央銀行(ECB)は、やっとこの3月から、参加国に対して国債の買い上げによって、総額一兆ユーロの融資を実施する予定である。しかし、それによって、ギリシャ等の不振国が立ち直り、ユーロ危機を克服できるかどうかは疑問である。

ウクライナ問題では、カトリック教と東方正教の対立と、NATOの東方進出をめぐる攻防が展開しているから、ロシアと欧米諸国が、かつてのように共存するのは困難である。

中東では、イスラム教徒とキリスト教徒との戦いが、石油利権や、過去の侵略の恨み等と深く複雑に結びつき、ますます熾烈になるだろう。また、イスラム教徒は人口が激増しており、移民が多くなるので、ヨーロッパのキリスト教徒との摩擦が激しくなりそうだ。

ところで、世界の主要国では、景気対策として、大規模な金融の量的緩和政策を実施している。先進国では、リーマン・ショックが発生した2008年から膨大な量の国債や社債を買い上げ通貨量を増やし、ゼロ金利になった。

07年以降の通貨総額(マネタリーベース)は、アメリカで3.6倍、イギリスで5.4倍、ユーロで1.8倍、日本は1.6倍に増加し、ユーロや日本では今後さらに増える。世界では至るところで豊富な通貨(貯蓄)が存在し、刺激を加えれば暴走しそうである。

タイミングに注目

アメリカ経済では、未曾有の規模の量的金融緩和政策がようやく効果を現し、株価が急上昇した。個人・企業・銀行の資産が増加し、消費、設備投資、銀行貸し出しが伸び始めた。景気が順調に回復すると、巨額な通貨が利益を求めて投資に走り、インフレ発生の可能性がある。米連邦準備制度理事会(FRB)は、それを防ぐために、早めに金利を引き上げたい。

現在、経済が好調なのはアメリカだけである。金利引き上げが間近と予想されると、世界の過剰資金がアメリカに集まり、インフレを引き起こし、金利引き上げの効果を打ち消すかもしれない。また経済が弱い中進国では、ドル買いのために通貨が流出し、為替レートの暴落と金利上昇を招き、深刻な不況が発生しそうだ。FRBの世界市場との対話と、金利引き上げのタイミングが注目されている。

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