アジア動向

静岡新聞論壇 12月18日掲載文

世界経済低迷と日本の方向性

泥沼状態脱した米国

先進国の中では、アメリカが経済危機対策に成功し、泥沼状態の経済から抜け出している。アメリカは、リーマンショックによる金融危機を救うため、直ちに大量な国債を発行して財政支出を拡大した。

この政策の効果が表れたが、連邦準備制度理事会(FRB)は経済危機が続いているという判断を曲げず、金融機関から国債などを買い上げ、またゼロ金利政策を続け、通貨量の拡大に努めた。急激に増加した通貨は、株式の購入に向かい、株価が高騰して、資産家・銀行・企業は莫大な評価益を獲得した。

正常な経済では、金利が低下すると、企業は将来の景気上昇を予想して生産設備を拡充し、雇用を増やす。その結果、個人消費が増加して、物価が上昇し、景気はスパイラルに拡大する。その過程で株価が高騰するのである。

ところが、今回の金融緩和政策では、通貨量が急膨張して、まず株価が高騰した。もし、株価の評価益が企業の投資や個人消費を刺激して物価が少しずつ上昇すれば、成功である。しかし、実際には、投資が増えず、物価が安定していた。経済活動が弱い時に、株価が高騰するのは、バブルを意味しており、また通貨量が膨張しているから、物価が突然上昇する恐れもある。FRBは、危険を察知して金融緩和政策の縮小を決定し、金利引き上げの機会をうかがっている。

しかし、世界経済の成長力は相当低下している。まず、第1に、アメリカの企業は、将来に対する確たる見通しを立てられず、弱気な経営を続けており、ゼロ金利が5年間も続いても、設備投資はあまり盛り上がらなかった。この状態は当分続きそうだ。

第二に、中国経済は、銀行に不良債権が積み上がっている上、労働人口の減少期に入っているので、6~7%成長の国に変わった。中国経済の低迷とともに、資源国の成長が止り、また中国周辺国の経済は低迷してきた。

第三に、日本では、景気に浮揚感が生まれたが、労働力不足の壁に突き当たり、回復力が失われて、株価の高騰はバブルに終わりそうだ。また、「異次元」金融政策によって大幅な円安になったが、大企業・中堅企業は主要工場をグローバルに展開し、為替相場に影響されない経営に変わっているから、円安でも輸出は伸びない。

新しい大型輸出産業

第四に欧州連合(EU)は経済の最悪期を脱したが、豊かな「北の国」と貧しい「南の国」との摩擦を解消し、分裂を避けるためにエネルギーを使い果たし、経済の総合力を発揮できない。

アメリカの金融政策の変更は多くの国を苦境に追い込み、主要国は危機対策として一段の金融緩和を実施するだろう。

ところで、豊かなアジアでは、今後、環境、医療、介護、教育などのサービス産業が伸びるはずだ。日本国内で外国人医師などを使って、外国人向けの大規模な医療や介護のサービスを開始し、またアジアからの留学生を大幅に増やす。それらは、停滞する世界経済の中で、日本の新しい大型輸出産業になるだろう。アベノミクス「第3の矢」は、障害になる規制を撤廃するはずだ。

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