アジア動向

静岡新聞論壇 5月14日掲載文

台頭・中国とAIIBの狙い

ドル基軸金融に対抗

IMFと世界銀行がドル中心の世界金融システムを支えている。IMFは加盟国が外貨の資金繰りでショートを起こした時、ドル資金を緊急援助する。これに対して、世界銀行は発展途上国にドルの長期資金を融資して経済成長を支援している。この2つの国際金融機関によって、世界の金融経済はドルを中心として円滑に回っている。

ところが、IMFに対する出資額はアメリカが18%、日本が7%に対して、中国はたった4%に過ぎない。発言力は、出資額に応じて強くなるから、IMF資金の運用のウエイトはヨーロッパに偏っている。

1997年のアジア通貨危機の時には、IMFは融資の条件として、厳しい緊縮財政政策を要求した。その結果、東南アジア諸国は未曾有の経済危機に落ち込み、韓国経済は生存の危機に追い込まれた。東アジアをはじめとして、ほとんど全ての発展途上国はIMFを毛嫌いしている。

アジア開発銀行(ADB)は、1966年に日本が発案して、アメリカが同意した国際金融機関であり、現在の出資額は日本が16%、アジア国家でないアメリカが16%である。中国は6%にすぎない。

アジア通貨危機の時、日本はアジア諸国に多額のドル資金を短期融資した。今後の通貨危機の再発防止のため、IMFのアジア版であるAMFを提案したが、アメリカは日本の金融支配力が強まることを嫌い、拒否した。

ところが、世界は一変した。購買力に換算した中国のGDPはアメリカを抜き、世界トップになった(世界銀行資料)。平均寿命は76歳であり、アメリカの79歳に近づき、所得の不平等を示す指数は、アメリカよりわずかに劣る程度である。

中国の鉄鋼生産は世界の50%、自動車は25%、ITの部品では、過半が中国製品に占められている。アジアでは日・中・韓・台を中心とした生産循環が成立し、世界的に見ると、日・中・米を結合した研究・生産循環が形成されている。

非民主国家にも支援

中国は、ユーラシア大陸の経済発展のため、自らが最大出資国になるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を決めた。それは国際金融機関であるから、国内金融のように共産党が影響力を振るうという不透明な経営は許されない。AIIBは、透明性を確保するため、欧米の金融機関から優秀な人材を引き抜き、金融手続きにうるさいヨーロッパ諸国をメンバーに入れた。

AIIBでは、既存の国際金融機関のように民主主義国家を優遇という方針は消えるだろう。それは、非民主国家でも経済成長し、所得が向上しているからだ。現在、習近平政権は、不良債権、深刻な公害、貧富の拡大、汚職の蔓延に対して生存を賭けて戦っており、それは中国経済の持続的成長のためにも、AIIBの成功のためにも、必要な措置である。

日本は、現在、アメリカに追従しAIIBに加盟していない。一昔前、アメリカはひそかに米中会談を続け、ニクソンが突然訪中して(72年)、米中の和解を表明し日本を慌てさせた。AIIB問題でも、同じような背信行為が起こるかもしれない。

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