アジア動向

静岡新聞論壇 4月30日掲載文

二つの独裁国家の生き方

存続望まれる北朝鮮

世界では、米中の2大国をめぐって、ロシア、EU、ASEAN諸国、中東諸国などが、大きな国際問題が起きる都度、合従連衡を繰り返し、秩序ある新時代を目指している。

こうした中で、強国に潰されず、独裁政権が支配している国がある。その一つは、強国に囲まれた北朝鮮である。その強みは、周囲の強国は、いずれもその存続を望んでいることだ。もし、北朝鮮国家が崩壊したならば、数百万人の難民が韓国、中国、ロシアに押し寄せ、これらの国は、救済事業に膨大な経済力を奪われる。

中国の朝鮮族の経済は難民に押し潰される可能性がある。韓国では、貧富の差の拡大や急激な社会変化によって、老人や若者の自殺率が上昇して世界一になり、麻薬の国メキシコの7倍に達した。もはや、数百万人の難民を受け入れる余裕はない。日本にも難民の一部が上陸して、民族問題が起こりそうだ。

北朝鮮は核弾道ミサイルを完成させた。核兵器を持ち、常に移動させ所在が不明であれば、どの国も核反撃を恐れて攻撃しない。北朝鮮は軍需生産を拡大した上に、平壌では、高層マンション、大型レジャー施設、大型ホールを建設している。巨額な軍事費や公共事業費が製造業や建設業に散布されて、膨大な雇用を創造したので、都市の住人は豊かになった。

また、大型銅像の製造技術に優れ、海外独裁国からの注文が多く、また中国への出稼ぎ収入がある。もし、北朝鮮が崩壊し、韓国に吸収されると、大部分の官僚は職を失う。官僚はそれを恐れ、国民の自由を厳しく制限して、反政府運動の芽を潰し、同時にロシアの極東進出に協力して、周囲の強国のバランスを利用して、独立を守り抜く覚悟である。

もう一つの国は、中東産油地域における宗派の交差点に立地しているシリア・アサド政権である。中東のシーア派勢力は、イラン、イラク南部、ダマスカス等を通り、そのすぐそばのベイルート北西部に伸び、軍事力の中軸を担うヒズボラの拠点に達している。

スンニ派勢力は、南はサウジアラビアやアラブ首長国連邦から、西はトルコから、それぞれシリアへ伸び、ダマスカス周辺がシーア・スンニ両派の勢力均衡地域である。

危うい均衡のシリア

現在、そこでは、アサド政府軍、反アサド軍、IS(イスラム国)軍、反IS軍が入り乱れて戦い、トルコは反アサド軍を、サウジアラビア、アメリカ、EUは、反IS軍と反アサド軍を支援している。

ロシアは、コーカサスがこの均衡地点に近いので、ずっとアサド政権を支援し、中国はイランとの関係が深まり、アサド政権を支持するようになった。シリアでは、宗派対立の他に、アラブ・ペルシャ・トルコ・クルドの4民族の対立と、米・ロ・中・EUの石油資源をめぐる長期戦略とが複雑に交差し、小さな衝突が大戦争を誘発しかねない。大国はそれを恐れている。アサド独裁政権は危うい均衡を保ちつつ、長い期間生存するだろう。

世界では、現在、米中の勢力均衡点が模索されている。日本は、平和のためバランスを急激に崩さないよう独自の役割を果たしたいものだ。

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