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金融財政事情7月20号

複眼的に展望すれば、中国の未来は明るい
コピーするから安い。格差があるから成長する。

限定的な上海万博の経済効果

来年、上海万博が開催されるが、中国経済に対する景気刺激の効果は大きくないだろう。中国経済の規模が大きくなっているから、万博程度のイベントでは、ごく僅かな効果しかないだろう。

振り返ると、長銀・調査部は上海万博に深く係わったことがあった。1986年のことであるが、王震(おうしん)副首相と面談して、つぎのような上海万博の開催を提案した。将来、中国に中心は上海になる。上海の発展には東側の甫東地区の開発が不可欠であり、ここで万博を開き、開発のきっかけにしたらどうか。日本では、大阪万博によって大阪東北部が開発され、千里ニュータウンが生まれた。
長銀は、日建設計、乃村工芸、太陽テント等、万博の専門企業の協力を得て、上海社会科学院と共同して、フィージビリティー・スタディーを重ね、黄浦江を潜るトンネルも位置をも決め、最終報告は、会長を御願いした堺屋太一さんが、当時上海市長だった江沢民の前で、上海万博は採算に乗ると説明をした。この報告は評価されたが、開催はずっと遅れ、20数年後になった。

上海万博の日本館は、ブース利用料が3億円であって、大企業には人気がない。その理由は、深刻な不況に襲われたことの他に、大企業のブランドは中国で浸透しており、今更、万博でPRする必要性はないことだ。

ところで、数年前には、北京オリンピック後の中国は、反動不況に襲われると言われたが、中国経済が大きくなったので、オリンピック終了に伴う経済的影響は少なかった。中国はオリンピックや万博で影響を受けるほど、経済が弱小な国ではないのだ。

上海は将来世界の金融センターになるだろう。中国は今年中にGDPが日本を抜いて世界第2位になる。20年後にはアメリカに並ぶだろう。現在、世界最大の外貨準備額を持ち、アメリカの国債の30%を所有しており、中国の金融政策が世界経済を左右するほど力を持ってきた。

また、中国政府は、基軸通貨としてのドルの負担を軽減し、かつ中国の外貨準備を減価させないため、IMFのSDRに決済機能を持たせ、SDRのレートについては、元のウエイトが高いバスケット方式にするという構想を持っている。そうなれば、元は基軸通貨の一翼を担うことができる。

中国の周辺諸国には、中国製品が溢れており、元による決済が拡がっている。元の価値は安定しており、ドルやユーロに対するレートは上昇傾向を辿っている。元は貯蓄手段としても、決済手段としても、最も好まれる通貨になり、キルギスやロシアの東部地域、シベリアの南東部でも流通している。中国の経常収支の黒字が大きいから、当分、元に対する信頼性は揺るがない。
現在、内外の資本や資金移動に規制があるので、上海が直ちに世界の金融センターになるのは無理であるが、金融・証券業務関するエクスパートが育っており、また上海は生活環境が整い、暮らしやすいので、規制が緩和されると、確実に世界の金融センターのなるだろう。

バブル崩壊の可能性はない

中国の不動産・株式市場は、世界からバブルだ指摘され、事実、不動産価格・株価はかなり値下がりして、バブル崩壊に伴う大不況が来そうだった。しかし、4兆元の景気刺激、税制上の住宅投資刺激、金融緩和等の政策によって、住宅価格の低下はほぼ止まった。

幸いにも、最大の輸出先国であるアメリカの経済が最悪期を脱しつつある。アメリカ政府は、サブプライムローンをはじめとして多くの住宅ローンについて、借入期間の延長を要求したので、多くの不良債権は直ちに正常債権に変わった。また不良資産査定を実に甘かった。これらは国家スケールの粉飾といえるだろう。日本が金融危機だった時に厳密に資産査定したのとは、まったく逆方向の対策だった。
その上、アメリカ政府は昨年9月から今年の3月まで、大手銀行に対して抵当権の執行手続きの中止を要求した。住宅市場で売却が減れば、住宅価格は下げ止まる。こうした強引なやり方で、アメリカの不況に歯止めがかかったので、中国の対米輸出の減少は間もなく止まる。

中国の内陸部では、大規模なインフラ投資が進み、また住宅投資を刺激する政策が取られたから、内需が拡大するだろう。

コピーするから安い

所得格差が拡大する差別社会では、経済が成長しないと考える人がいる。確かに、工業国ではそうだが、中国では違う。農民と都市市民の間には、身分差別があり、農民は自由に都市に住めない。しかし、もし、移動を自由化したなら、都市には貧民が溢れ、治安が悪化して、経済活動が弱くなっただろう。身分差別が、秩序ある都市を中心とした目覚ましい経済成長をもたらしたといえる。
差別された農民や発展が遅れた内陸部の人は、豊かな市民を憧れ、民工となり、猛烈な勢いで働いている。彼等が中国経済の高成長を支えている。

長い歴史を振り返ると、キリスト誕生以来、18世紀までは中国とインドが世界の経済大国であり、世界のGDPの過半を占めていた。また、巨大な文化が蓄積され、例えば、漢字は近世の西洋文明が生み出した概念をそっくり表現できるだけの豊富は文字群からなっている。中国人の90%が難しい漢字も読めるのだ。今後もこの文化力が中国の経済成長を支えるだろう。

これから20年後に、中国のGDPはアメリカを上回り、軍事的な逆転が起きるだろう。軍事力は、軍事費の負担能力に依存するからだ。素直な人は、その頃中国が世界の軍事的覇権を握ると考える。

最近、アメリカのガイトナー財務長官が北京を訪れ、中国側の4年後、財政赤字の半減という要請を飲んだ。日本は、かってアメリカ国債の世界最大の保有国だったが、アメリカの財政政策について少しも文句をつけなかった。国の器が違うということだ。

日本はアメリカと価値観を共有していたから、アメリカは日本を支配しやすかった。ところが、中国は価値観が違うから扱いが難しい。価値観を共有しない国が成長しているときに、どのような事態が起きるのか予測がつかない。

一例をあげよう。中国では、実質的に知的所有権が存在しない。アメリカ流の経済学によれば、知的所有権を認めなければ、特許料が入らず、研究開発の意欲が失われ、技術進歩が止まるという。しかし中国では違う。コピー商品を巧く利用している。たとえば、中国製パソコンの多くは、ソフトをコピーしたので、価格が安かった。だから一気に2億近い人にパソコンが普及して、中国は瞬く間に情報化社会に入り、経済が急成長を遂げた。中国ではコピーは正しかったのである。

北京オリンピックの入場式で、火薬、羅針盤、漢字、印刷などをアピールしていた。あれは「我々は無料でヨーロッパに技術を教えた。ヨーロッパこそ、中国の技術をコピーしたのではないか」というメッセージだと思う。人類共通の知識を、一個人や1企業が独占するというのは許せない行為だと考えられているのだろう。

いずれにせよ、今後も、日本の企業は、中国マーケットを狙って出て行かざるを得ない。中国では日本のアニメやファッションがずいぶんコピーされている。それをダメだとケチなことを言わずに、コピーこそマーケティングになると考えるべきではないか。

ホンダのバイクの模倣品は「ホンタ」だった。ホンタやその部品ををコピー生産している企業は、次第に技術水準が向上して、製品の品質が改善された。市民をもっと高級なホンダを欲しくなり、本物のホンダの需要が伸びた。日本の現地企業は、模倣品をつくっている会社を買収したり、系列化して、現地生産の規模を拡大した。模倣に対して一途に怒るという態度と、機会を捉えて利用しようという姿勢がある。両方とも正しいのだろう。

法秩序も見方次第

中国では土地所有の考え方が違う。天体の一角は私有ではなく、国有にすべきだと考えている。土地は国有であるから、中国の地方政府は、何時でも農地を強制買収することができる。それを工場団地に変え高く売り飛ばす。その利益によってインフラを整え、つぎに建設する工場団地をもっと高く売るのだ。国民に土地占有権を認めるが、私有権を認めないというのは素晴らしい政策だった。

日本のように、絶対的な土地私有権を認めると強制収用ができない。そのため都市計画も農村再生計画も実現不可能だった。また大型飛行場も大型コンテナー港もできなかった。

中国では土地収用を執行する省や都市の役人は共産党員である。彼らは、地域が発展すると、所得が上昇して豊かになるから、熱心に土地を収奪をする。土地を収奪された一部の農民は困るが、工場団地が完成すれば、雇用が拡大して、地域が成長して、農民も豊になり、社会が安定化する。ところで、地域によっては、農民の不満が溜まり、暴動が発生している。しかしまだ年間で数万件程度であり、不安はない。

独裁国家では、政府や党の幹部が権力を武器にして悪事を働くことが多いので、それを防止する機構がつくられている。それは経済犯でも死刑にし、判決が下るとすぐに銃殺することだ。死刑になった人に請求書が来て、鉄砲の弾の代金も払わされるという話だ。春節の前には、死刑執行が多いという。それは、治安を維持するためだ。暴動が起こす、盗む、騙すといった犯罪を大規模に行えば、死刑になるぞと警告するわけだ。

大規模な暴動が発生すると、その都市の市長は職を失うだけではなく、刑務所に送られる。土地を強制収容して、暴動が起きれば、市の幹部は責任をとらされ、一生浮かばれない生活に追いやられる。強制収用の場合には、市当局は、反対者を徹底的に弾圧する覚悟が必要だ。日本の役人は土地収容に失敗しても、責任をとらないから楽だ。日本通の中国人はそういっている。

共産党の大物幹部でも、突然のように逮捕され、死刑を言い渡されることがある。汚職が多いが、ある段階を越した大規模な汚職が発見された時には、見せしめに処刑されるのである。

中国にも、個有の法秩序があり、欧米のそれに較べると、かなり異なっている。私は中国人の秩序も正しいと考えており、中国の未来について楽観している。(談)

戦争や自然災害を伝えるのは命がけの仕事だ。麻薬の追求もそうだ。記者は身の危険を省みずに真実を追究する強い意欲の持ち主だったはずだが、いまや記者魂はノンフィクション・ライターに移ったようだ。彼らが身を挺して、アフガンで真実を追究しているときに、テレビでは新聞の論説委員がキャスターになってビンラビン批判の高説を述べている。これから大型の社会小説家は新聞記者ではなく、ノンフィクション・ライターから生まれるだろう。

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