価値総研「Best Value」

2005年9月

何故、中韓で反日運動が強いのか

大人の国の関係

振り返ってみると、20世紀前半の世界は戦争の時代だった。日本は、日露戦争、第1次世界大戦、シベリア出兵、満州事変、日中戦争、太平洋戦争と絶え間なく戦った。しかし、後半になると、一変して平和の時代が続き、日本は戦後から現在までの60年間には戦争に加わったことがなかった。

この60年間には、米ソが冷戦状態にあり、ベトナムを始めとしてアジアやアフリカでは米ソの代理戦争が頻発したが、ソ連の崩壊とともに代理戦争は消えた。現在の戦争は、少数民族の独立戦争、石油資源を狙った戦争、イスラム過激派のテロ戦争等の小型の戦争だ。

それとともに、主要国の政府は、お互いに相手国の尊厳を傷つける非難を繰り返したり、主張を通すために武力に訴えようとはしなくなった。そもそも核兵器が戦争抑止力として機能している上に、主要国の大統領や首相は毎年サミットで顔を合わせて親しくなり、懸案事項について解決の大筋を合意しやすくなった。また いずれの国も市場経済の原則が守られた民主的な法治国家であるから、交渉や解決の方法について、暗黙のルールが形成されており、トップが大筋を指示し、事務方が外交交渉を重ねて細部を詰めるというやり方で妥協点に到達している。2国間で解決不可能の場合は、多国間の協議に持ち込んで妥協点を発見するという方法もある。

日米間では、今まで、頻繁に経済摩擦が発生し、激しい交渉が行われたが、お互いの政府は、中国や韓国の政府が日本に対するように、歴史や人道問題を持ち出し、国民のナショナリズムを刺激して、政府が先頭に立って相手国を罵ることはなかった。

勿論、民間では、お互いに、非難を繰り返している。例えば、日本では、太平洋戦争中のおけるヒロシマ・ナガサキの原爆投下、全国主要都市に対する無差別焼夷弾攻撃、在米邦人の強制連行等を非人道的だという非難が続いている。しかし、日本政府が正式にアメリカ政府に抗議をしたり、謝罪を迫ったりしたことはない。

アメリカ人は、真珠湾攻撃を非難しているが、アメリカ政府は、太平洋戦争中における日本軍の非人道的行為はすべては、極東軍事裁判で決着したとしており、今さら、追求しようとはしない。それよりも、日米間の経済的・軍事的な関係を密接にする方が、重要だと考えている。

主要国の政府が相手国を罵らないは、仮想敵国をつくり、ナショナリズムを刺激して、国民の団結心を強める必要がないからだ。民主的な政府が国民の要求を吸い上げ、市場経済を導入して安定した経済をつくり、充実した福祉政策によって、すべての国民が最低生活が保障されている。国民は満足し、その国の国民であることを誇りにしている。今さら、ナショナリズムを煽る必要がない。

ところが、中国と韓国の政府はナショナリズムを煽り、民衆は日の丸を焼き、日本を倫理的に非難している。「靖国」「教科書」「尖閣列島・竹島」を巡る問題がそれであり、倫理的な非難である限り、解決の目途が立ちそうもない。

その原因は、社会構造上の問題点や、日本と両国との古い歴史のなかに発見できそうだ。

中国のガス抜き

工業化を目指す発展途上国ではナショナリズムが必要だ。工業国に発展するには、勤労者は低賃金と長時間労働に耐えて、低コスト・良質の製品を生産して世界市場で販売し、それによって獲得した利益を設備投資に投入して、低賃金・長時間労働を続けるという循環が必要だ。国民の1人1人が、国家の経済的発展が自分たちの幸せに繋がり、国家の安全が高まるという確信を持った時に、こうした辛い仕事にチャレンジできる。こうしたナショナリズムと、国民の不満が高まった時にそれを抑える強力な政府が必要だ。

中国にとっては、強いナショナリズムが必要な時期になってきた。中国は世界の工場になったが、貧富の格差拡大、自然環境の悪化、国有企業の整理、景気過熱の反動といった難しい問題が残されており、下手をすると、国民は、政府に反抗しそうだ。

貧富の格差問題を取り上げてみよう。中国の沿海部の大都市では、裕福な階層が増えた。私の友人の中国人は、ガードマンに守られた団地の中の240ヘーベの豪華マンションに住んである。居間にはグランドピアノがあり、2階には、一人娘専用の部屋とジャクジー付きの専用風呂がある。これは上流の下の生活だという。

沿岸地域には、こうした生活を楽しんでいる世帯数は6000万以上に達している。彼等の多くは外資系企業や民間企業で働き、輸出を伸ばして、中国経済の高成長をリードしている。彼等が乗用車、大型テレビ、デジカメ付き携帯電話、日本産の果物等の高級品の顧客であり、こうした階層が急増している。

これに対して、農民1人当たりの耕地面積は日本より遙かに狭いため、農民は貧しく、都市への出稼ぎによって食いつないでいる。しかし、農民戸籍の人は都市に住めないので、出稼ぎ先を解雇されれば、貧しい農村に戻らなければならない。長期間、働く場合には、農村籍の子供は都市の小学校に入れないから、妻子を呼べない。

政府は貧富の格差の拡大を防ぐために、西部大開発に着手したが、直ぐには、この格差が消えそうもない。その上、電力や水の不足が深刻になり、電力不足をカバーするため、炭鉱では、無理な増産によって事故が頻発し、毎年約6000人が死亡している。また、全土にわたって乱開発が進み、優良な農地が過剰な工場団地や住宅団地に変わった。その結果、大気汚染や交通渋滞などのインフラ不足が目立っている。

電力不足やインフラ不足は、経済が過熱した結果だ。政府は昨年から景気抑制政策を続けている。それに伴って、今後国営企業の倒産が増え、工業団地や住宅団地を造成した多くの地方政府は財政危機に落ち込むだろう。国営銀行の不良資産は急増するに違いない。

国営企業や国営銀行の幹部は、官僚の天下りであり、設備計画や人事は共産党の意向に左右される。またそこでは福祉施設が充実しており、特権的な職場である。国営企業は全産業の生産額の50%近くを占めており、共産党の重要な支持基盤だ。今後国営企業の整理が進むとともに、共産党の力が弱るだろう。また、地方や都会の低所得層に溜まった不満が爆発する可能性が大きい。

ソ連や東欧諸国が崩壊した後には、中国はもはやマルクス主義や毛沢東思想によっては、国民の思想を統一できない。しかし、社会構造に不安な要因を抱えている上に、チベットや新彊・ウイグルでは分離運動が強く、さらに台湾が未統一であるから、とにかく共産党のリーダーシップを強めなければならない。共産党は、幹部の汚職・腐敗を摘発して自浄作用が働いていることを示し、同時に、政府は見せしめとして、軽い犯罪でも死刑にして治安をを守ろうとしているが、それだけでは不足であり、仮想敵国をつくり、ナショナリズムを高揚することが必要だ。

そうした時に、中国政府の最大の恐れは、人権や権利思想とアメリカ的な民主主義の考え方が国内に広がり、移動の自由を求めて貧しい農民が都市に押し寄せ 大暴動が発生することだ。さらに、土地私有権の要求が強まれば、大規模開発が不可能になり、民主主義思想が浸透すれば、共産党の支配体制を揺るがすだろう。

アメリカの影響力を排除し、また台湾を統一するため、中国は核兵器や長距離ミサイルをもつ世界有数の軍事大国にのし上がった。アメリカ政府はそれに不安を感じ、アジアを軍事的な不安定地域だと捉え、日本と一体になって、中国と北朝鮮を軍事的に包囲する強固な防衛システムをつくっている。

日本の外交はかっての弱気を捨てて、イラクに出兵し、北朝鮮を追いつめ、竹島、尖閣列島、東シナ海の海底資源等の領有権を堂々と主張し、領海を侵犯した中国の原潜を追跡した。また「新しい歴史教科書」がつくられ、小泉さんは靖国神社に参拝し、世論は憲法改正を支持するようになった。

中国にとっては、反日運動を盛り上げてナショナリズムを刺激し、民衆に鬱積している不満をガス抜きできるチャンスがやってきた。

勿論、ガス抜きが行き過ぎると、暴動を誘発して、反政府運動の発展するという問題がある。強い政府による統制が必要だ。

韓国における建国の捻れ

韓国は、市場経済システムに則った民主国家であり、今や先進工業国であり、所得や生活の水準が高く、福祉も充実しているから、中国のようにナショナリズムを刺激して、国民の団結心を強める必要がない。ナショナリズムが強い国は国際社会では嫌われ、国際取引でも何らプラスにならない。韓国は経済強国になったから、ナショナリズムを抑制し、日本に対しても歴史問題をとりあげて、罵る必要がないはずだ。

羽田・金浦間にジャンボ機が飛び、福岡・釜山間には高速船が走り、毎日一万人が往来している。日本人は韓国映画に熱中し、韓国の子供は、日本のアニメに夢中だ。それにも拘わらず、何故、韓国政府は反日運動を続けるのだろうか。それは、韓国の歴史と思想に深く関係している。

朝鮮半島の文化の歴史は日本よりも遙かに古く、かつ均質な民族から成り立っている。ところが、韓国は太平洋戦争後に誕生した新しい国家であって、残念ながら、独立は武力で戦いとったものではなかった。

民衆が戦って設立した独立政府は強力である。例えば、アメリカはイギリス軍と戦って独立したため、現在まで、多民族を纏め上げ、熱い戦争・冷戦・テロに戦い抜ける強い政府が続いている。フランスやロシアの政府は武力革命によって生まれたから、存在に正当性があり、発足以来ずっと強力だ。

太平洋戦争で日本が敗れた時、東アジアでは軍事的空白地帯が生まれ、次々に独立国が生まれた。ベトナムでは、日本の降伏後、20日も経たないうちに、ベトナム民主共和国が独立宣言をした。その1年後には、旧宗主国のフランス軍と戦い、次いでアメリカ軍との戦争に拡大し、20年かかって南北ベトナムの統一国家をつくることに成功し、強力な政府が社会主義の下で、市場経済を導入するという難しい課題に挑戦している。

インドネシアは 日本が降伏した2日後に独立宣言が行われ、旧宗主国のオランダと4年にわたる独立戦争の過程で、国家らしい軍隊や行政機構がつくられた。ところが、独立戦争がなかった台湾は現在も独立できず、フィリピンでは反政府ゲリラが抵抗し続けている。

ところで、韓国は、日本が降伏した時、日本の朝鮮総督府は統治権を譲渡すべき組織がなかったので、総督府は至急、自宅で監禁状態に置かれていた独立運動の指導者を釈放して、建国準備委員会を設立して貰った。しかし、連合軍はそれを認めず、朝鮮総督府に引き続き統治することを命じ、一ヶ月近く経った後に、やっと38度線以南の統治権が朝鮮総督府から、直接、米軍に移管された。38度線以北では、ソ連軍が日本軍を武装解除して、ソ連の軍政下に入った。その3年後に、国連の監視下で選挙が行われて、やっと独立国の韓国が生まれ、北朝鮮と別の国になった。

こうした経緯が、1950年代から60年代にかけて行われた、長い日韓国交正常化交渉における日本政府の冷たい主張に結びついた。日本は整然とした統治システムを無償で、韓国に譲渡したのであるから、賠償を払う必要はない。それどころか、鉄道、道路、電気・水道等のインフラを整備し、日本人と同じように、当時としては高い教育水準を享受できたではないか。5億ドルの経済協力はするけれども、それは賠償ではない。世界には、旧植民地に対して賠償を払った例がなく、まして韓国は戦勝国ではないのだ。

韓国は請求権(賠償)という名目が欲しかったが、経済復興のために資金が必要だったので1965年になってやっと妥協し、それぞれ国内では、経済協力、請求権だと述べることにした。5億ドルは韓国の年間予算に匹敵する大きさであり、それによって、韓国経済が発展する基礎が築かれた。しかし、韓国国民は謝罪、賠償、個人補償(日本政府から直接にもらう)が得られなかったので、妥結反対のデモが荒れ狂った。独立戦争を起こして日本と戦わなかった結果が、激しい反日運動の継続だった。

強靭な韓国の思想

つぎに日韓の間に横たわる問題は、朱子学(儒教)から受けた影響の強さである。朱子学は宋の時代に発達した哲学であり、また国際関係論だ。哲学という観点に立てば、朱子学は一木一草から社会現象まで 万物はすべて「理」を備えており、「理」を突き詰めていけば、絶対的な真理に行き着くはずだという主張である。

それが宇宙の絶対的な「理」であり、これに反した人間や事物は必ず崩壊するはずだ。つまり、真理は1つしかなく、相対的な考え方が許されない。歴史教科書が幾つもあり、教科書によって、韓国を植民地したことに対する反省の仕方が、少しずつ異なるということは、論理的にあり得ないのだ。

国際関係論からいえば、世界の秩序の中心に中国の「中華」があり、その分家として「小華」つまり朝鮮が存在しいる。朝鮮では、朱子学思想を基礎とした祭典や統治制度を持ち、明の時代には年号も同じであり、そもそも朝鮮という国名は明の皇帝から賜ったものだ。

「中華」の皇帝は天命によって地上を支配できる唯一の尊大であり、それを認めそれに従うのが「小華」の務めだった。「小華」から見ると、日本は文化の圏外にいる野蛮な「東夷」であり、その証拠には、論理的に皇帝が日本に存在するはずがないのに、皇帝と同じ意味の天皇が存在し、年号も中華と相談なしに勝手に決めている。日本は朱子学を全く理解しない倫理を欠いた国である。

日本は、足利時代に朝鮮から綿織物を始めとする先端工業製品と、教典や朱子学の書物を輸入した。徳川幕府は幕府機構を支える統一的な思想を朱子学に決めた。しかし、日本では、李朝の朝鮮のように朱子学を唯一の思想だと絶対化せず、荻生徂徠や伊藤仁斉を始めとして、実証的な立場から、厳密な朱子学を空疎な学問だと批判する学者が増え、朱子学が多様化した。幕府も多様化について鷹揚な態度だった。日本はもともと絶対的な価値を追求するのではなく、相対的な価値で満足する国だ。清との交流も長崎を通ずる細いルートしかなかった。

明治新政府が、統治権が皇室に移ったという文書を朝鮮に送った時、「皇」という文字は、中華の皇帝以外は使えないという朱子学の原理に基づいて、朝鮮側は日本の無学振りに激怒し、返答もなかった。

ところで、韓国としては、日本の植民地時代に韓国人が余りにも日本人化し、日本の敗戦と同時に独立できなかったことを絶対的に認めたくない。そこで、最近、韓国の歴史は1919年に上海に設立された「大韓民国臨時政府」から始まったという見方が主流になり、その独立政府が米ソの対立によって、潰されたという史観が、現在までの政府の正当性を証明する根拠になっている。朱子学の伝統では、こうした名分がことさら重要だ。

韓国では、日本の天皇のことを「日王」という場合が多いのは、現在でも、「皇」を使いたくないからだ。最近、韓国では中国への留学生が激増し、中国語ブームであり、また北朝鮮との歴史的・民族的一体性が強いため、北朝鮮寄りの外交政策に変わっている。現在でも、「中華」と「小華」は同じ家系だという理論体系が残っているように思われる。6カ国会議では、この3国が近い立場にあって、日米両国と対立している。

消えない反日感情

韓国軍は、朝鮮戦争で直接中国軍と熾烈な地上戦を展開し、ソ連空軍の攻撃に耐えた。古い話であるが、元は長期間にわたって朝鮮半島を占領し支配した。しかし、韓国人や韓国政府は中国やロシアに反省を求めたり、教科書の訂正を迫ったことがない。ところが、日本に対してだけ、豊臣秀吉の侵略と36年間の植民地支配が強く非難され、反日運動が続いているのは、韓国誕生の汚点を反日運動の継続によって相殺すべきだという考え方と、朱子学の真理は1つしかないという思想が結合して、倫理的な要求にまで高まっている。

中国でも、韓国ほど強くはないが、反日運動を当然だと考える歴史的理由がある。中国侵略の先頭を切り、アヘン戦争を起こし、香港を99年間も租借したイギリスこそ、日本と同じように非難され、反英運動が続いてもよさそうだ。アメリカ軍は朝鮮戦争で中国軍と死闘を繰り返した。しかし、中国政府はイギリスやアメリカには、鷹揚な態度である。

振り返ると、日本と戦って勝ったのは国民党の軍隊であり、中共軍は旧日本軍の武器を手に入れて、内戦に勝ち、新政府を設立したのだ。その国民党軍は現在台湾におり、最近では、独立を望む世論が強くなった。中国政府にすれば、人民解放軍が日本を降伏させ、かつ台湾も統一したかった。そうなっていれば、中国政府は、誰からも後ろ指を指されない正当な存在であり、台湾も統治しているはずだ。日本軍に勝っていなかったという歴史上の欠陥が、反日運動の要因になっているに違いない。

また 日本人は道徳の論理的基礎を儒教に置き、基礎教養として中国古典や漢詩を学び、また日本語は漢字なしには成り立たない。文化的に見ると、明らかに中国が中華となり、日本は「東夷」である。中国経済の急成長とともに、中国には朱子学の中華思想が広がり、成り上がり者の日本人に反感を持つのは当然だろう。

中国、韓国の嫌日感情は、今後も、かなり長く続くだろう。それはやむを得ない事情であって、だからといって、私たちは嫌中や嫌韓になる必要がない。私たちの得意技は相対主義だった。中国人や韓国人の中にも、日本が好きな人がいるだろう。今後、3かカ国の経済関係は深まる一方であるから、人的交流が深まり、相手国で就職する人、相手国に出張を繰り返す人、留学生、修学旅行が増加して、次第に、友人の輪が広がるだろう。その過程で、次第に嫌日家は減るに違いない。半世紀ぐらい経てばかなり変わるだろう。

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