アジア動向

静岡新聞論壇 7月19日掲載文

ASEANの親中国化

共同声明出せず閉幕

ASEAN外相会議では、反中国派と親中国派が対立して、共同声明を纏められずに閉幕した(7月13日)。ASEAN・45年の歴史で初めてのことだ。フィリピンはスカボロー礁事件について、ベトナムは近海の石油開発について、中国非難を盛り込みたかったが、親中国のカンボジアの議長が議事を打ち切った

親中派はカンボジア、ラオス、ミャンマー等、中国から道路、発電、港湾等のインフラ投資を受け、中国企業が進出し、それによって経済基盤が形成されている国だ。

ミャンマーは人口が5000万人を超える大国であり、今後、大きな市場として注目されている。しかし、人口の30%が少数民族である。

イギリスが植民地支配していた時、統治の幹部にインド人を、職員に少数民族をそれぞれ配置し、ビルマ人を最下層の仕事に押し込めた。独立後、ビルマ人の軍事政権は少数民族に復讐した。ミャンマーが民主化されて、軍部が退くと、国境の山岳部に住む少数民族の武力闘争が強まる不安がある。

中国にとって、隣国のミャンマーは中東・アフリカからガス・原油を運ぶ安定的なルートとしてきわめて重要だ。ここの港湾から中国へパイプラインを建設中であり、同時に、大規模なインフラ投資が続いている現地の華僑は豊富な経済情報を握っているので、中国企業が進出しやすい。ミャンマー経済が成長すれば、反ビルマ族運動も収まるだろう。ミヤンマーの発展にとって、中国が最も重要な国である。
タイ、マレーシア、インドネシア、シンガポール等の諸国は、中国に対する貿易依存度や観光客依存度が高く、華僑が経済的支配しており、反中国の姿勢をとれない。
これに対して、ベトナムには中国に侵略された歴史の恨みがある。中国は、ベトナム戦争の後半でアメリカ側に付き、またべトナムがインドシナ3国を統一しようとした時、大部隊を派遣して阻止した(中越戦争)。ベトナム人は中国嫌いである。

フィリピンはアメリカと軍事同盟を結び、経済的にも深い関係にある。

米の影響力に陰り

アメリカは、ベトナム、フィリピン、韓国、日本を連結して、中国の太平洋への出口を封鎖する計画であるが、最近では、経済が長期低迷に苦しみ、また中東における軍事的影響力を全く失った。これと対照的に、勢いがある中国はアジア経済をリードし、またミサイル、航空機、サイバー攻撃の開発力では、アメリカに迫っている。封鎖ラインを楽々突破できる。

中国では賃金が上昇したので、最近、軽工業が続々とベトナムへ移転し、現地の雇用が拡大している。中国は工業化資金の援助など多様な宥和政策を実施して、ベトナム近海の石油資源を狙うだろう。フィリピン経済の対中依存率は高くなる一方である。中国は経済力を梃子として、長い期間をかけてASEANを親中国化して、大きな利益を狙うだろう。ASEANが親中国化すれば、中国は尖閣列島問題も有利に解決できると考えているに違いない。

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