アジア動向

静岡新聞論壇 2月6日掲載文

新興国の夢が去る

溢れたドルで一時成長

アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)は、リーマン・ショック以後、ゼロ金利と通貨量の激増という異常な金融政策を続けたので、株価や住宅価格が上昇した。アメリカでは、個人が金融資産の多くを株式に運用し、また住宅の所有率が高いから、その結果、個人資産が増加して個人消費が刺激された。景気は好転して、昨年の年末には、年率3.2%の経済成長に達し、失業率は6%台に下がった。

FRBは、バブル経済の進行を恐れ、量的緩和政策を縮小するチャンスを探っていたが、景気浮揚力が強くなったと判断して、今年の1月と2月には金融資産の購入額を減らし、通貨増発量を削減した。

FRBはつい最近まで、量的緩和政策によって、膨大なドルを世界に散布していた。アメリカ国内の資金需要が弱いので、過剰発行されたドルは海外に溢れ出て、新興国の金融機関、政府機関、大型プロジェクト、企業等に供給されたのである。それによって、新興国経済の成長率が高まり、一時、世界経済をリードする力を備えたように思われたので、世界から一層多くの資金が集中した。

トルコを例に取ると、人口は7500万に達して若者人口が多く、また1人当たり国民所得は一万ドルを超え、政教分離の近代国家だ。政府は民営化政策を推進し、2005年にはEU加盟の交渉を始めた。

そのころから外資企業が一斉にトルコへ工場進出し、08年以後、膨大なドルの低利資金が集まり、トルコ政府は、先進国入りを目指してイスタンブールの巨大飛行場、ボスポラス海峡の新しい架橋、多数の巨大ショッピングモール、高速道路網の拡大等のプロジェクトを進めた。10年と11年には経済成長率は年率10%に達し、世界から注目された。

外資依存の構造的欠陥

トルコはオスマントルコを創った偉大な民族であるが、残念ながら新興国の弱点を克服できなかった。イスラム教の影響によって女性の23%しか就職せず、また若年労働力の約70%が小学校卒であって、上級のマンパワーが極端に不足している。そのため、外資企業によって自動車や家電が主要産業の一角を占めるようになったが、付加価値の低い中・下級品が中心である。

また消費者ローンが拡大して、国民の貯蓄率が一層低くなり、政府、企業、国民はともに、外国からの借金で暮らしているという状態だ。

アメリカの金融政策の変更を見込んで、トルコに投融資していた外国金融機関や企業は、不安を感じて昨年秋から資金を引き揚げ始め、トルコでは通貨の暴落、物価の高騰、金利の上昇が発生し、深刻な不況と政治危機が起きそうだ。

外資依存の成長を続けたアルゼンチン、ブラジル、インドネシア、インド、南アフリカ、等の新興国はいずれも経済の構造的欠陥に悩み、今や世界経済の成長にマイナスの働きをしている。アメリカは自国経済の成長が重要であるから、新興国経済を助ける気持ちは全くない。今年中に利上げに転ずるかもしれない。中国経済には隠れた不良資産が多く、世界経済は厳しい調整期に向かっている。

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