アジア動向

静岡新聞論壇 2月17日掲載文

中国と朝鮮半島の接近

経済、軍事面でメリット

朝鮮半島と中国との経済関係はますます深まった。まず韓国をみると、貿易と対外投資の最大の相手国が中国になった。中国の都市では韓国製家電が溢れ、至る所に韓国企業の巨大な看板があり、韓国ドラマが人気を集め、北京のタクシーは現代自動車である。

また青島市、大連市、朝鮮民族自治区地域等の一角では、韓国企業の工場が延々と続き、ハングル文字の小売り・レストランが軒を連ね、まるで韓国にいるようだ。中国では韓国語を話せる中国人が増え、韓国では中国語を話せる人の就職率が高い。中国における外国人留学生の40%が韓国人である。

韓国は、中国に対してFTAの締結を急ぎ、さらに、軍事分野について対話システムの確立を進めている。また対日政策では、中国と歩調を合わせ、歴史問題を日清戦争以前まで遡り、慰安婦、南京虐殺、尖閣諸島 竹島等を国際的世論にも広く訴え、謝罪と領土放棄を要求している。

次に北朝鮮は、国家の存立は核兵器とミサイルの開発の成否にあると信じている。核兵器を持たなかったイラクとリビアの惨めな結末から強烈な教訓を得た。長距離ミサイルの開発に続いて、小型核兵器の開発に成功した。中国は、核実験に対して、制裁を加えるという国際社会の意向に同調しているが、北朝鮮から核攻撃を受ける可能性がほとんどない上、この核兵器の存在にはアメリカとその同盟国を脅かし、かつ混乱させるというメリットがある。

北朝鮮が中国に反抗したとしても、機械、化学製品、食糧等経済成長を支える基礎物資を専ら中国からの輸入に依存し、かつミサイル発射基地が中国国境近くに立地しているので、最終的には影響力を行使できると考え、徹底的な制裁には賛成しない。
また、この核武装は韓国にとってもマイナスばかりではない。核武装によって北朝鮮政権が安定し、また中国が北朝鮮経済を援助するだろうから、大量の難民が韓国に押し寄せる危険性が消えた。

日本は米中対立の均衡点

朝鮮半島は列強の世界戦略にとって地政学的に重要な地域であって、最近の百数十年の歴史を振り返っても、ここを舞台として日本、ロシア、アメリカ、中国が覇権を争い、日清、日露、朝鮮戦争が起きた。

北朝鮮も韓国も地政学的に危険な場所にいることを十分に知り、北朝鮮は自国の安全を核兵器と中国経済への依存に賭けている。これに対して、韓国は東北アジアにおける米中勢力が均衡する中立的地点になることを願い、自国の安全を朝鮮戦争をともに戦ったアメリカに依存するという方針から、敵として戦った中国との関係を深めるという戦略に転換したようだ。韓国にとっての均衡点は、中国経済が発展し、それへの依存度が高まった分だけ、中国寄りになった。

こうして北東アジアは、「地続きの中国・朝鮮半島」対「環太平洋の日米」という新しい対立に向う可能性が生まれた。これを避けるために、日本は東南アジア諸国やインドとの経済関係を強めて、アジア全体における米中対立の勢力均衡点になるよう努めたい。

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