アジア動向

静岡新聞論壇 5月23日掲載文

政治家失言 中韓の思うつぼ

経済成長と対日批判

中国、韓国とも、反日感情が高まっている。中国が政府高官の靖国神社参拝を非難するのは、靖国には戦死した軍人だけが祀られるはずであるが、東京軍事裁判でA級戦犯として処刑・獄中死した14名が戦死者に準ずると見なして、合祀されているためだ。

太平洋戦争は中国を戦場とした日中間の長期戦であり、途中から米英両国が加わり、最終的に中国が勝った。中国の犠牲者数は1000万人を越すと云われている。

中国は1970年代初め、国際的に孤立していたので、対日国交回復を急ぎ、賠償を放棄した。その際、国内の反対を抑えるため、「中国を侵略したのはA級戦犯であり、日本国民は戦場にかり出された犠牲者であるから、彼らに賠償を請求できない」と説得した。その6年後の78年にA級戦犯が靖国に合祀された。

昭和天皇は、合祀に反対だったと云われ、合祀以来靖国参拝を中止し、現在の天皇も参拝されない。東条元首相は対米戦争を決定し、戦陣訓を創り「生きて虜囚の辱めを受けない」ことを命じたが、本人は虜囚となり、処刑された。この戦争で日本人300万人が犠牲になったので、彼の合祀は日本人にとっても納得がいかない。

80年代以降、中国の経済が好調になると対日外交は強気に転じ、A級戦犯が合祀されている靖国へ政府高官が参拝する都度、中国侵略という事実の否定であり、倫理を欠いた行動だと、激しい抗議を繰り返している。

一方、韓国は、慰安婦問題を執拗に追求している。日本政府は日韓国交正常化の時(65年)総額5億ドルを支払い、韓国政府から今後植民地支配における損害補償を一切要求しないという約束を取り付けた。そのため、慰安婦問題については、日本政府は、「慰安婦には日本女性もおり、強制連行した証拠はない。慰安婦への補償は韓国政府が支払うべきだ」という立場を崩さなかった。

90年代に入り、韓国経済が強くなると、韓国を植民地にした日本を道徳的な見地からたたき、韓国の国際的地位を相対的に高めようとした。それに合わせるように、元慰安婦が突然次々と名乗り出て悲惨な体験を語り、韓国では慰安婦数は年々増加して、30万人と推定する新聞記事も現れた。

冷静な調査研究発信

日本政府は、実際に気の毒な慰安婦がいることを認め、90年代後半に総理大臣の詫び状を添えて、アジア女性基金を創って、慰安婦を救済することを提案をしたが、韓国側から拒否された。韓国の目的は慰安婦問題を世界に知らせ、高い立場から日本の非道徳性を訴えることにあり、金銭の問題ではなかった。

韓国のロビイストはワシントンで活躍し、アメリカの議会では女性の人権を無視した日本を非難する決議が通過し、国連やEUでも日本批判の動きが見られる。

中韓の対日批判はモラルの問題へと広がり、下手をすると日本は価値観が異なる国だと世界から非難されそうだ。政治家の失言は中韓両国の思うつぼである。国内には、事実を冷静に調査分析した研究がたくさんあるから、それらを英訳し広く世界に発信すべきだろう。

ページのトップへ