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静岡新聞論壇 7月31日掲載文
戦争の臭いと日本外交
世界各地で頻発する紛争
世界各地で、戦争が頻発している。まず、ロシアの反撃が目立つ。旧ソ連圏の国は続々とEU・NATOに加盟し、最近では、グルジアとウクライナが西欧陣営への移行を試みた。ロシアは危険を感じ、2008年にグルジアを攻撃して南オセチアを独立させ、以後ロシア軍が駐留している。
ロシアは、今年の春、クリミア半島をロシア領に編入し、現在、ウクライナ東部に住むロシア系住民の反政府軍運動に対して、軍事援助を続けている。マレーシア旅客機の撃墜事件では反政府軍の支配力が強く、国際的な調査団も現場に近寄れない。ウクライナ政府は弱体であって、キリスト教でウクライナ語を使う西部の住民と、ロシア正教でロシア語を使う東部の住民を統合する力がない。内戦が長引き、ロシアが東部を実質的に支配しそうだ。
ロシアは、西ヨーロッパでは経済的な飛躍が不可能だと判断し、エネルギー開発や工業化の軸をアジアに移しているが、そこには、将来、最も警戒すべき国の中国がいる。
中国は、エネルギー不足国であり、ガスや石油を中央アジアから中国へ送るパイプラインの拠点を新疆ウイグルにつくりたい。しかし、そこのイスラム教徒は独立志向が強く、中国に対してテロ攻撃を始めている。ロシアは旧ソ連圏に属していた中央アジアの産油国に対して、現在でも、影響力を維持している。
そこで中国がエネルギー開発やパイプラインの建設資金を調達し、ロシアがエネルギーと武器を長期供給するという計画が実現しつつあり、先端兵器の生産拠点であるウクライナ東部から中国に武器が輸出されている。
中東では戦争が続いている。世界各地のスンニ派原理主義者は、シリアとイラクに集まり、英仏両国が人為的に線引きした国境を無視して、壮大なスンニ派イスラム教国を建設しようと戦っている。
アメリカはイラクではシーア派政府をつくり、現在シーア派大国のイランと経済封鎖解除の交渉を続けている。サウジアラビアはスンニ派への資金を供給し、かつアメリカを支持している国であるが、今後、その姿勢をかえた時の混乱が心配である。いずれにしろ、世界の大国は、解決困難な中東紛争から可能な限り距離を保ちたいので、基本的な外交政策をはっきり決められない。
将来左右する重要な時期
現在、どの大国も国際社会で単独行動を取る軍事力や経済力を欠き、安全のために同盟国を増やしたい。ロシアは欧米諸国から孤立したので、差し当たり中国に接近している。
日本は、軍事的にもエネルギー資源でも自立できないから、同盟の好個な対象である。ロシアは、日本に接近して安定的なエネルギー供給と、日本からシベリアへの投資や技術移転を望んでいる。アメリカは中国への軍事的対抗力を増すため、日本の集団的自衛権の確立と日韓の対立緩和を期待している。中国はアメリカとの対決を避けつつ、アメリカと軍事的に深く結合した日本を威嚇している。中東では日本に紛争解決の仲介を願っている国もある。日本にとって、将来を左右する重要な外交の時期になった。