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静岡新聞論壇 5月22日掲載文
米国衰退の時、選択の幅 広く
秩序を保つ能力欠ける
アメリカは、冷戦崩壊後の20年間、世界の覇権国だったが、アフガン、イラク戦争の頃から目立って凋落した。アメリカの軍事力は依然として最強であるが、勝利後に、相手国を統治し秩序を保つ能力を欠き、アフガンやイラクでは現在でもテロが繰り返されている。手製の小型爆弾の攻撃によって、重度の障害者として一生を苦しむアメリカ人は5万人を越し、もはや地上戦は限界に達した。
アメリカは、中東で同盟国の政府が倒されても何もできなかった。エジプトでは、親米のムバラク政権が崩壊するのを黙認し、選挙によって成立したモルシ政権がクーデターで倒され、反米的な軍事政権が生まれても、傍観するだけだった。
アメリカは、シリア内戦でも影響力を失って「アサド政権の存続を条件とした化学兵器の破棄」というロシアの取引に乗り、またペルシャ湾を支配するため、イランとの核管理を巡る和平交渉を続けている。イランはサウジアラビアやアラブ首長国連邦などスンニ派諸国にとって不倶戴天の敵であるから、アメリカは、これら親米諸国の信頼を失った。
トルコはアメリカに不信感を抱き、ロシアや中国とのパイプを広げようとしている。中東の親米国はアメリカ離れして独自の安全保障政策を模索し、ロシアはアメリカの衰えに乗じて,ウクライナからクリミア半島を奪い、また中東の親米諸国に武器を輸出するようになった。
アメリカは、アジアにおける信頼力の低下を防ぎ、中国に対する抑止力を強めるため、日本との軍事的関係を深めたいと思っている。日本は、その要望に応えて、軍事力の増強、同盟国への武器輸出、国家安全保障会議の設置、特定秘密保護法の制定等を実現し、現在、集団的自衛権の法的整備に取りかかっている。10年前には想像もしなかった軍事協力であり、オバマ大統領は、今年、訪日した時、尖閣列島が安保の適応地域に入ると宣言した。
日本の真の狙いは、この機会を利用して日米軍事同盟を対等な同盟に変え、集団的安全保障に加わり(国連軍への参加)、さらに環太平洋連携協定(TPP)でリード役を果たし、アジアにおける安全保障や経済同盟の軸になって、アメリカへの依存度を減らすことにある。
自己利益優先する大国
同盟関係では大国が自己の利益を優先して勝手な行動をとるものだ。日米関係を振り返れば、アメリカは80年代までは円高政策を強要して日本経済の発展を抑え、79年には、日本に少しも知らせずに突然、中国との国交回復を決めた。
また、大国は、同盟が不必要になった時には、遠慮なく解消してくる。中国の経済力と軍事力がさらに増大すれば、アメリカは経済的利益と安全のため、日本を捨て中国との同盟に切り替える可能性がある。中東ではムバラク政権等いくつかの同盟政権を切り捨てた。
日本にとって重要なのは、① 外国人技術者を増やし日本の経済力を向上させる② 必要な軍事力を備える③ 中国を敵対視しない④ アジア経済の軸になる⑤ 同盟国を可能な限り多く持つこと―である。